流浪の月 エピソード0

 

流浪の月エピソード0

2022年4月18日 U-NEXT配信

 

ナレーション:2020年、本屋大賞を受賞した『流浪の月』。凪良ゆうによるベストセラー小説が李相日監督の手で待望の映画化を果たした。

主演に広瀬すず松坂桃李を迎え、横浜流星多部未華子、現代の日本映画界を代表する俳優が勢揃い。彼らはいかにしてこの愛よりも切ない物語を表現しようとしたのだろうか。撮影の舞台裏、そして出演者のトークやインタビューをもとに、映画『流浪の月』の真実に迫る。

 

 

松坂桃李:どうも、お久しぶりです。

広瀬すず:お久しぶりです。

松坂桃李:お久しぶりというか、初号以来な。

広瀬すず:そうですね。

松坂桃李:今回、U-NEXTさんがこのようなスペシャル対談を設けてくださり。

広瀬すず:おしゃれですね。

松坂桃李:おしゃれだよね。こんな景色のいい場所で。『流浪の月』のスペシャル対談ということで、現場の話とかプライベートの話ができればいいなという形でお送りさせていただいております。どうもよろしくお願いいたします。松坂桃李です。

広瀬すず広瀬すずです。よろしくお願いします。(笑)

 

 

Chapter:1 映画『流浪の月』に出演して

広瀬すず:そうですね……逆にどうでした?って感じですけど。

松坂桃李:まあ、もう2回目だもんね。

広瀬すず:李組というものに結構いろんな、たぶん聞いて構えてた方が多かった……。

松坂桃李:もう、俺、そっちのタイプ。

広瀬すず:本当ですか?!

松坂桃李:すっごい構えてたから。

広瀬すず:アハハ(笑)

松坂桃李:いろんな人の話を聞くからさ、もはや、それ、たぶん都市伝説なんじゃないんですか?ぐらいの話まで聞いたりとかしてたから、どんな現場なんだろう?と思ったら、えっ?すごく愛情深いじゃん、と思っちゃったけど。

広瀬すず:そうですね。

松坂桃李:2回目からすると、どうなの?それは。

広瀬すず:『怒り』という作品でご一緒させていただいたときは、自分、高校生だったので、結構ハードなシーンがあったり、役柄でもあったからこそ、だから、いろいろヒントをもらいながらやってたんですけど、今回は、ヒントもいただきつつ、結構自分の中からフツフツと熱い塊みたいなものが出るまで待ってる監督がいたので。

松坂桃李:(笑)あ、そうなんだ。

広瀬すず:うん。なんか全然『怒り』のときと監督の印象も違うし。

松坂桃李:ああ。

広瀬すず:思ったりよりあっと言う間に終わってしまったな、撮影がっていう。

松坂桃李:時間が濃密過ぎるよね。

広瀬すず:毎日ヤマ場、みたいな(笑)。

松坂桃李:毎日ヤマ場で、毎日果汁100%みたいな。それぐらい濃密だったから、確かにあっと言う間だったかもね。

広瀬すず:うん。

松坂桃李:そうね。

 

 

2021年8月6日

ナレーション:映画『流浪の月』クランクイン。

李相日、『悪人』や『怒り』などを手がけ、人間の心を鋭くえぐってきた映画監督だ。本作でも、自ら脚本を執筆し、『流浪の月』というある愛の形に挑んだ。

撮影監督は、『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョ。美術は、日本だけでなく海外でも活躍中の種田陽平。照明は、『怒り』に続いて李組に参加した中村裕樹。音響は、李組常連の白取貢。映画を熟知しているベテランスタッフが集まった。

 

スタッフ:ご紹介いたします。家内更紗役の広瀬すずさんです。よろしくお願いします。広瀬すず:よろしくお願いします。(拍手)

 

ナレーション:広瀬すず演じる家内更紗の撮影は、バイト先での休憩シーンから始まった。

 

スタッフ:よーい、はい。

 

ナレーション:再びの李組の日々。更紗をつかみ取ろうと真摯に役に向き合う広瀬の姿があった。

 

更紗×広瀬すず

李相日監督:世の中で自分という存在を押し殺して、どうやって自分の小さい良心の殻を守っていくかということに必死な姿というのが、何か共感できたし、すずなんかも、彼女の本心というのは、もうちょっと奥の奥に存在してたりするんで、そういった、何か佇まいみたいなものが更紗と重なる部分がありましたね。

 

広瀬すず:大変ですけど、難しいですけど、監督と向き合うことで、一つずつまたヒントじゃないですけど、手がかりみたいなものが見えてくる、拾えてくるので、やりながら、わりとお話ししてやってる感じです。一緒に頑張りましょう(笑)。皆さんと。

 

 

スタッフ:佐伯文役の松坂桃李さんで。よろしくお願いいたします。(拍手)

 

ナレーション:同じく、主人公の佐伯文を演じるのは松坂桃李。撮影は、大学時代の文から順を追って行われた。

 

文×松坂桃李

李相日監督:文の魅力って、誰よりも寄り添える力、苦しみに対する共感能力の高さ。桃李くん、あれだけドラマも映画もたくさん出て、本当に濁りを感じないんですよね。そういう佇まいを感じ取れる俳優さんて本当に希有なんで、やっぱり文は、松坂桃李以外ちょっとあり得ないんじゃないかなっていうのは本当に最初の段階で思いました。

 

文:家来る?

 

ナレーション:ある雨の日に出会った更紗と文。2人の穏やかな日々は、2カ月後、「女児誘拐事件」と呼ばれるように。それから15年、更紗と文は、カフェで偶然再会を果たしてしまう。

 

 

Chapter:2 更紗と文の物語

広瀬すず:私はやることが決まってから原作を読んだので、自分が信じるものは文だけだっていう感覚からたぶん入ってるから、準備っていうよりも、文を信じてたら大丈夫な気がするっていうか、そういう感覚でした。

松坂桃李:ああ。でも、それ、俺も一緒かも。

広瀬すず:あ、ほんとですか?

松坂桃李:うん。これ、どうすればいいんだろう?っていう、まず不安というか。この佐伯文という人物をどういうふうに演じればいいのかっていう、そういう見えない不安みたいなものが襲ってくるけど、原作もそうだし、台本を読んでみてもそうだけど、やっぱり更紗の存在が文の心の中での唯一の救いみたいなものだったから、そこを頼りに生きるしかないっていうふうな感覚だったかなあ。

 

更紗と向き合った日々

広瀬すず:自分が存在することで誰かを苦しめているような自分がいるのと、周りに合わせて生きてきた時間みたいなものがどう映ったらいいのか、どう見えたらいいのかというのは、結構最初に監督とお話しして、「不意に笑ってみれば?」とか言われたりして、みんな笑ってるから私も笑っちゃってる、みたいな。

松坂桃李:心から笑ってるわけとかではなくてっていう。

広瀬すず:うん。

 

 

広瀬すずとは?

李相日監督:すず、本当にアスリートみたいじゃないですかね。瞬時に自分を一番高い精神状態まで持っていく、その集中の仕方と、スムーズさというか、力の配分というか、何かをグッと自分の中から引き出す力というのがアスリートのようだなと感じたところでもありますけどね。

 

2020年12月23日 広瀬すず・李相日 5年ぶりの再会

ナレーション:撮影の7カ月前。李相日と広瀬すずは、5年ぶりの再会を果たしていた。

 

李相日:なんか暗いね。

広瀬すず:えっ?

李相日:いや、俺が。

広瀬すず:どういうことですか?(笑) 私じゃなくて?

李相日:のっけから息の合わなさ(笑)。どう?この5年ぐらい。

広瀬すず:なんか相手が見えにくくなりました。お芝居してて。

李相日:相手が見えにくい。

広瀬すず:目合ってるのに目合ってない感じといいますか、それが抜けなくて。

李相日:この映画、それじゃダメだね。

広瀬すず:ハハハハ(笑)そうですよね。

李相日:うん、そうだね。

広瀬すず:今回、結構過去があるじゃないですか。過去とか思い出って、どうやって作ればいいんですかね?

李相日:それはキャラクターのこと?

広瀬すず:うん。そういうのは、変に気になったことがあると、あれ、なんで?と疑問に思うことがあるじゃないですか。

李相日:でも、そこからやらないと始まらないもんね。全くあのキャラクターと同じ過去を何か探さなきゃってことではないから、一番根っこの孤独感とか、誰でもいいから、絶対的な何か求めるモノ…モノというより人か、感覚みたいな、そういうのは探していかないと、ふわふわなっちゃうよね。

広瀬すず:うん。

 

ナレーション:こうして更紗役との向き合いの日々が始まった。

一方、松坂桃李も文になるための準備を開始。

この日は、カフェでコーヒーのいれ方を教わっていた。

 

オーナー:ゆっくり時間をかけて。

松坂桃李:なるほど。ああ、これはちょっと新たな発見ですね。

この一杯を飲んでもらうためにって思うと、全て納得のいく動作といいますか、ちゃんと理由が明確になってきたなっていう。なぜ文がコーヒー屋をやっているのかっていうのを、世の中との距離感をちょうどよく保てるところでもあるのかなぁと思いましたね。

 

2021年6月26日 少女時代の更紗役オーディション

ナレーション:松坂は、少女時代の更紗役を選考するオーディションにも参加していた。

 

李監督:このお兄さんが話しかけてきます。

子役:不審者(笑)。

李監督・松坂桃李:(笑)

 

ナレーション:クランクインが間近に迫り、文という役をつかみ取るため、松坂もあらゆることを試していた。

 

文と向き合った日々

松坂桃李:それこそ監督と最初に話したのは、撮影の順番的に文の過去の部分、10歳更紗と出会ってからの、その過ごしてる時間のところからいくからということで、「どれだけ実感できるかだよね」という話から、そっかぁと。実感まで落とし込めたかどうかまではわからないけど、そこまでなるべく落としながら初日を迎えるということに結構専念したかもね。

で、本当に大きかったのは、それこそ文と更紗が一緒にアパートで過ごしてる時間というのが、本当に自由な、すごく幸せな時間だったなって思えたのね。それが実感としてちゃんとあったからこそ、大人になった更紗と再会したときでも、その当時握ってたものというのが、「あ、握っててよかった」というふうに思えたっていうか。

 

松坂桃李とは?

李相日監督:プロですよ。プロ中のプロというか。簡単に「この役はこういう役だ」という規定をしないし、もっともっと何があるのか、わからない部分を含めて、どんどんどんどん自分の外の範囲に手を伸ばしていく、そういう貪欲さもあるので、そういう意味では非常にやりやすいですよね。どんどんどんどん求めるものが高くなっていけるといいますかね。

 

 

Chapter:3 亮と更紗

更紗:おかえり。

 

亮:もしかして怒ってる?

 

ナレーション:横浜流星演じる中瀬亮は、更紗と同棲している恋人だ。

 

亮:変だよ。らしくない。

 

ナレーション:一流企業に勤めるエリートであり、更紗の過去も受け入れていたが、文の出現で2人の関係は大きく揺らぎ始める。

 

亮:おまえらどうなってんだ!

 

 

亮×横浜流星

松坂桃李:凄かったわぁ。

広瀬すず:(笑)濃厚でしたよね。

松坂桃李:濃厚だったよね。

広瀬すず:なんかよくわかんないっていうのがたぶん(笑)。役と一番リンクしてた部分が。

はじめましてだったので。リハーサルでお会いしたのが。そこの時間も、お互いすごい人見知りと、ワーッと自分からしゃべるタイプではなかったから、だいぶ時間かかって。ちゃんと李さんに2人で、「何やってんだおまえら」みたいな。

松坂桃李:怒られて(笑)。

広瀬すず:「ちゃんとしろよ。時間ねぇんだぞ」みたいにすごい言われて「はい」とか言いながらも(笑)。

 

2021年7月12日 広瀬すず横浜流星 初顔合わせ

ナレーション:クランクインの1カ月前。広瀬と横浜はリハーサルのため、都内のスタジオに集まった。2人が会うのはこの日が初めてだ。

 

李監督:なんか話して。なんか話してみて。

横浜流星:なんか話してみて。

李監督:うん(笑)。

広瀬すず:人見知りですか?

横浜流星:人見知りではないけど、普段からあんま話さないタイプではあります。

広瀬すず:なるほど。

横浜流星:人見知りですか?

広瀬すず:はい。(笑)人見知りです。だんだんなくなってはきましたけど。

横浜流星:ああ。

李監督:終わり?

広瀬すず:カメラが(笑)。

横浜流星:カメラがすごい気になって。

広瀬すず:3台もいるから。

 

李監督:じゃあ、いきましょう。よーい、はい。

 

ナレーション:距離がなかなか縮まらない中、この日、そのまま初めてのリハーサルに。

 

亮を演じて

横浜流星:空手をずっとやってきていたので、男は人に弱いところを見せるなと植えつけられて十数年生きてきたので、甘えることが、かっこ悪いじゃないけど、甘えることは女性にしてはいけない、甘えさせなければいけないというふうな思いにずっとなってたんで、すごい抵抗があったんですよね。抵抗があったし、甘えようと思っても、どう甘えればいいんだろう?みたいなことがあって、すごく難しかったんですよね。

李相日監督について

横浜流星:基本、監督は、僕らに答えを出さないんですよね。ヒントを与えて、そこから僕らに考えさせるので、まあ、ずっと悩んでました。これでいいのかなっていう思いの中やっていたんですけど、でも、ずっと考えさせるようにしてくれているのかなっていうふうに思うと、すごく愛のある方だなっていうふうに思うし。

 

スタッフ:ご紹介いたします。中瀬亮役の横浜流星さんです。よろしくお願いいたします。

横浜流星:よろしくお願いします。(拍手)

 

広瀬すず:緊張してるの?

横浜流星:緊張してる。今のでもう緊張してる。

広瀬すず:アハハ(笑)

 

ナレーション:2人ともずいぶん打ち解けた様子だ。

 

李監督:自前の汗で。

(スクワットを始める横浜流星

広瀬すず:(笑)代謝いいんだもんね?

横浜流星:そう。代謝いいんです。

 

更紗:はーい。

 

ナレーション:そして本番。

 

亮:ただいま。

更紗:おかえり。

亮:もうびちょびちょ。一日じゅう汗だくよ。

更紗:はい。

亮:ありがとう。

更紗:すごい。

亮:うわ、ありがとう。おっ!晩飯カレー?

更紗:うん。

 

ナレーション:横浜は、更紗に甘える亮をすっかり体現できるようになっていた。

 

李相日監督について

横浜流星:監督自体も僕らの芝居を見ていろいろ考えてくれたりだとか、監督自体もずっと悩んでいるというか。どうしたらもっとよくなるのかというのを考えながら現場にいる姿を見たので、そこで、より監督の期待に応えられるように、亮として生きなければいけない。亮として更紗をもっともっと愛さなければいけないという思いになれたし、誰よりも監督が一番、この一瞬、一瞬、魂を込めていたので、そんな姿を見ると、僕ら、まだまだ、もっともっと追い込まなければいけないというふうな気持ちになれたので、その姿を実際に見て、(?)られたような感じにはなりましたね。

 

亮×横浜流星

李相日監督:彼は、もともとこの原作に非常にほれ込んでくれていて、何かの形で参加したいということを耳に聞こえてきてはいたんで、一度お会いしてみましょうということで、会って話をしてると、僕には亮にしか見えなくなってきて。横浜くんは子どものころから空手をやっていて、世界チャンピオンになるぐらいなので、ものすごくストイックな、子ども時代から鍛練を積んできているので、そういった意味で古風ですよね。だからこそ、どう甘えていいかわかんないっていう迷いがかえっておもしろかったというか。そういう意味では、意外性もありながら、きちんとハマってくれたときに、ものすごいいい効果になるんじゃないかなとは思いましたけど。なんか人間くさいですよ。そういう意味では。

 

 

スタッフ:谷あゆみ役の多部未華子さんです。よろしくお願いいたします。

多部未華子:よろしくお願いします。(拍手)

 

Chapter:4 谷と文

文:そういうの病院でなれてるんじゃないの?

谷:それは仕事だから。

 

ナレーション:多部未華子演じる谷あゆみは、文とつき合っている恋人だ。しかし、いつまでも一線を超えようとしない文に不安と焦燥を募らせている。

 

谷×多部未華子

松坂桃李:2人が登場するシーンというのが、わりと温度が高い状態でのシーンが結構多かったから。で、多部さんの場合、ポイントで出演するから、しかも途中参加だったし、結構本人的にも不安要素が多い中で。でも、唯一救いだったのが、お互いはじめましてじゃなかったというのが、そこが助けになって、お芝居に入る前の集中の仕方とかというのも何となく肌感でわかってたからこそ、そこは乗り越えることができたっていうか。ただ、多部さんのプレッシャーはすごかったと思う。

広瀬すず:うん。なんか見てて、ハーッてなりましたもん。ウーッて。

松坂桃李:ハーッてなった?

広瀬すず:ウワーッてなりました。

松坂桃李:谷さん、ハーッて?(笑)

広瀬すず:谷さん…ってなりました。

松坂桃李:(笑)

広瀬すず:すごい切ない顔っていうか。

松坂桃李:すごいよね。奥行きがあるからさ。

広瀬すず:いろんな瞬間でいろんな感情が顔から読み取れたときに。

松坂桃李:そうそうそう。

 

 

ナレーション:撮影前の休憩時間、松坂は多部のためにコーヒーをいれていた。さて、練習の成果は?

 

多部未華子:コーヒー飲んだことないからわかんない(笑)。

松坂桃李:えっ?

多部未華子:コーヒーってほとんど飲んだことないから(笑)。これ濃いのか薄いのかわかんない(笑)。

松坂桃李:あ、そうなんだ。

多部未華子:コーヒー好き?

松坂桃李:コーヒー好き。教えてもらってるやつは、ちょっと濃いめかな。濃いめだけど、酸味がそんなになくて飲みやすい感じのやつ。

多部未華子:確かに飲みやすい。酸味がすごい苦手で。

松坂桃李:ああ、なるほど。

多部未華子:飲めないんだけど、これは飲める。濃いとか薄いとかわかんないけど、おいしい。

 

多部未華子:きっと、谷さんもいつも仕事帰りに一息つける休憩の憩いの場としてコーヒーを飲みに来てるんだろうなっていう想像力を働かせながら、これから撮影どうなるんだろうっていう不安と、いろんなことを思いながら(コーヒーを)いただきました。

 

 

谷:あなたたちのことを知って、吐きそうになった。そんな人を好きになった自分にもぞっとした。

 

 

谷を演じて

多部未華子:彼との向き合い方という意味では、女性としてはすごく当たり前というか、なんで、不安に思ったり、もっと知りたいのに、なんかこう、ポンて返ってこなかったりとか、そういう葛藤というのはすごく気持ちはわかるし。ただ、それを少ないシーンの中で全部を表現するというのがなかなか難しい作業……でしたねぇ。

 

谷×多部未華子

李相日監督:どっちかというと、多部さんて、パブリックイメージ、僕のイメージも陽の方だと思うんですけど、イメージが陽の方の中にある、ちょっと陰な部分ていうのって、やっぱのぞきたくなるものですよね。多部さんの陰みたいなもの、陰の部分みたいなものを見たいと思わせる存在ですよね。

感情がついてこないけど、演技をして、それで通り過ぎようということが、多部さん自身も一切ない。ある意味、演技に対して、映画に対して、ものすごく誠実な人だったんで、そこでちゃんと、ああ、苦しんでる感じが、僕はすごく誠実に見えたし、これといって何がしてあげられるわけじゃないけど、ああ、ちゃんと信頼できる人なんだなっていうふうに思えたし、待てる限界まで待とうって思えましたけどね。

 

李相日監督について

多部未華子:愛のある監督なのかなと思いました。監督の一言一言を自分の中で解釈するというのは、難しくもあり、……ま、難しかったです(笑)。

 

 

Chapter:5 質問タイム

松坂桃李の“癒し”は?

広瀬すず:(手を挙げて)はい!

松坂桃李:はい。

広瀬すず:一番癒しの時間て何ですか?

松坂桃李:癒し?

広瀬すず:うん。

松坂桃李:一番の癒し?

広瀬すず:一番の癒しの時間。

松坂桃李:一番の癒しかぁ。家に帰ったときに、うち、犬2匹いるんですけど、犬2匹が出迎えてくれて、ウワーッてなったとき。

広瀬すず:(笑)私もペットいるんで、めっちゃわかります。

松坂桃李:ワーッとなる。

広瀬すず:ああ、でも、意外。

松坂桃李:あ、ほんと?

広瀬すず:はい。

松坂桃李:ちょっと癒されるねぇ。

広瀬すず:ハハハ(笑)へえ。

松坂桃李:いま思うと一番の癒し。

 

広瀬すずにとっての“信頼・信用”とは?

松坂桃李:今の温度とちょっと、ちょっとというか、全然違うんですけど、人や物事に対しての信用とか信頼ってあるんですか?

広瀬すず:(笑)えっ?どういうふうに見られてるんですか?

松坂桃李:いや、いい意味で。

広瀬すず:李さんにも、人を信じるっていうか、信じることにすごい慎重ってたぶん思われてて。でも、それはそうだと思います。

松坂桃李:ああ。やっぱそうなんだね。でも、俺もちょっとそういうところがあって、勝手だけど、あ、なんかちょっと似てる部分があるかも、みたいな。

広瀬すず:(小声で)思ってました。

松坂桃李:(小声で)思ってました?

広瀬すず:だから、なんか話せるんですよ(笑)。

松坂桃李:(笑)

広瀬すず:そうなんです。慎重なんだと思います。

松坂桃李:そうね。

広瀬すず:自分の中のルールでもないけど、たぶんリズムがあるんだと思うんです。それがちょっと人と違うだけなんだなって思います。

松坂桃李:ああ、なるほどね。

広瀬すず:でも、あるはある。あります。

 

ターニングポイントになった出演作は?

広瀬すず:一番最初は、『海街diary』(2015年)っていう是枝(裕和)さんの映画は一番大きかった気がします。作品にがっつり参加するというのも初めてだったので。そして、1年かけて点々と撮ってたんで。

松坂桃李:あれ、1年だったんだ。

広瀬すず:そうです、そうです。

松坂桃李:すごいわ。

広瀬すず:1年かけて映画を撮ったのが、今のところ、最初で最後だったから、あんな贅沢で、あんな景色を見れたのは、貴重だったっていうか、すごい自分の感覚を変えてくれた作品が『海街diary』かな。

松坂桃李:へえ。

広瀬すず:何ですか?

松坂桃李:(笑)ターニングポイントですか?

広瀬すず:ターニングポイント。

松坂桃李:ターニングポイント。一番最初は、『僕たちは世界を変えることができない。』(2011年)っていう、向井理さん主演の、柄本佑さんと窪田正孝くんと俺の4人の男の子が主役で、ボランティアでカンボジアに学校を建てようというお話なんだけど、それが映画初出演だったのね。何にもほとんどわかんない状態だったんだけど、カンボジアに行っての撮影の撮り方が、その4人をただひたすら追っかけるみたいな、ただ追いかけていくドキュメンタリーチックに撮っていくのが、すごく自分の中で新鮮で楽しくて、あ、映画っていいな、もっとやってみたい、興味があるっていうふうに初めて思えたっていうか。

 

 

文と更紗の湖のシーンのロケ風景

アパートのロケ風景

 

 

Chapter:6 二度目の共演

広瀬すず×松坂桃李 二度目の共演

松坂桃李:二度目って感じしないんだよね。

広瀬すず:しないですよ(笑)。

松坂桃李:なんでだろうね。

広瀬すず:極端に言うと、初めてか、ずっと何回もやってるか、くらいの。

松坂桃李:やってるかっていう。

広瀬すず:結構、今回は感情をむき出しにするシーン、お互いにあるじゃないですか。

松坂桃李:そうそうそうそうそうそうそう。

広瀬すず:やっぱそれが、ここまでお互いがむき出しになると、すごい一気に濃密になるし。

松坂桃李:お互いのはらわたを見せながら、なんかこう(笑)。

広瀬すず:(笑)

松坂桃李:ぶつかる、みたいなっていうのがあったからなのかなぁとは、ちょっと思うね。

広瀬すず:うん。

 

 

「まさかとは思いますが、昔、自分を誘拐した犯人とつき合ったり、してないですよね?」

 

ナレーション:追い詰められてゆく更紗と文。許されぬ2人に待ち受ける運命とは?

 

 

『流浪の月』を観た感想

広瀬すず:私、なんかすごい泣きそうになったのは、文が一緒にアイスを床で食べてくれるところが。

松坂桃李:ああ、あそこ?(笑)

広瀬すず:ヤバッ。

松坂桃李:あ、そう(笑)。

広瀬すず:自分がいないシーンだったから、台本だけは知っていたけど、こんなにも報われていたんだって、映画観たらすごい思っちゃって、アイスのとこ、ヤバくないですか?

松坂桃李:ヤバかったんだ(笑)。

広瀬すず:うん。

松坂桃李:全然そんな感じしなかったけど。

広瀬すず:結構……。

松坂桃李:あ、そう。

広瀬すず:うん。

松坂桃李:あのときはね、アイス死ぬほど食わされて。

広瀬すず:ハハハハ(笑)

 

『流浪の月』を観た感想

松坂桃李:正直言うと、自分の出てるところは客観的に観れなかったし。だから、自分の出てないところで言うと、亮くんとのシーンていうのが、見ちゃいけないものを見ちゃった感じというか。だから、一瞬、スタートしたときに、あっ、あっていう、ちょっと(笑)。

広瀬すず:(笑)

松坂桃李:パッ……いや、でも、これ、(広瀬すず:わかります)観ないとだめだもんなと思って、パッと観たけど、それはね、随所でありましたね。

広瀬すず:ありました。私もありました。

松坂桃李:ありました?

広瀬すず:文は文の人生があるんだなって、突きつけられた感じ(笑)。

 

 

2021年10月20日

スタッフ:文役、松坂桃李さん、全編終了です。お疲れさまでした。(拍手)

(李監督から花束と抱擁)

松坂桃李:ありがとうございます(笑)。

李監督:あ、もう痩せてる。骨しかない。ご苦労さま。

松坂桃李:(笑)

 

スタッフ:家内更紗役、広瀬すずさん、全編終了です。お疲れさまでした。(拍手)

(李監督から花束)

李監督:ご苦労さまでした。

広瀬すず:(笑)

 

ナレーション:映画『流浪の月』、2カ月半に及んだ広瀬と松坂の向き合いの日々が終わった。

 

 

Chapter:7 『流浪の月』で得たもの

広瀬すず:やっぱり、感情を包み隠さず出す演じるって、こういうことだったなって改めて思った。これが一番大事なんだろうなというか、嘘がないというのが。

松坂桃李:そうね。でも、それって俺もあって、また違う現場行ったときに、言い方を恐れずに言うと、すごく楽になれたっていうか。

広瀬すず:ああ。

松坂桃李:ふっと力を抜くことができる自分がいるっていうか。大事なものを教えてもらったからこそ、落ちついていろんな作品とか役と向き合うことができる。

広瀬すず:大人ですね。

松坂桃李:大人?

広瀬すず:私は『怒り』のとき、李組終わったら、次の現場が不安になっちゃって、これで大丈夫かな、みたいな(笑)。

松坂桃李:(笑)

広瀬すず:そうか、楽かぁ。素敵ですね。

松坂桃李:そうなんだよね。若干、この辺(胸の辺り)とかに棲みついてる感じ。

広瀬すず:ハハハハ(笑)

 

 

李相日監督:僕はどこかで“映画って俳優のものだ”と思ってる部分があって、観客は俳優を通して、その人だったり、物語を見ていくんで、そこに真実が宿ってるかどうかで観客の印象って全く変わってしまうと思うんですよね。そういった意味では、今回、すず、桃李くん、横浜くん、多部さん、この4人を筆頭に、全ての俳優さんたち、誰一人残さず、本当に真実を体現してくれたと思うんですよ。そこに誰もあきらめず向かい合ってやり遂げてくれたというのは、この作品の核になっていると思いますね。

 

 

これがDVDに入るのであれば、書き起こす必要はないかなと思ったけど、 今の段階ではわからないから、どうしても残したかった。