李相日監督インタビュー

 

ななにー インテリゴロウ 2022年5月1日

 

稲垣吾郎:今作の原作者、凪良(ゆう)さんは映画化に関してどのようにおっしゃっていたんですか?

李相日:原作は、映像化の人気がすごく高くて、十何社から争奪になっていたらしい。僕もお手紙を書いてお送りして、僕の映画もちゃんと観ていただいてて、「原作をそのままなぞるんじゃなくて、李監督の『流浪の月』を見せてください」ということをおっしゃっていただいて。

稲垣吾郎:ああ、そうなんだ。でも、わかる気がする。全く印象が違いますよね。読んだ後の印象、映画を観た後の印象が。原作者はどう思われてるのかなと気になってたんです。違うものになってたから。少し清々しいさわやかな印象が小説を読んだ後にはあったけど、映画を観終わった後には、僕は心臓を鷲掴みにされて、今日、監督に会うのが怖いですよ。

 

――広瀬すず松坂桃李を主演に抜擢した理由は?

李相日:どこか、現状よりもっとこうなりたいとか、何か新しいものを探してたりすると、お互い発想が伸びていくというか。

稲垣吾郎:渇望感。なるほどね。

李相日:広瀬すずさんに関しては、『怒り』との出会いがあったんで、『流浪の月』を読んで、「彼女にやってほしいな」って最初に思ったんですね。

稲垣吾郎:『流浪の月』に関してはキャスティングは監督が。

李相日:そうですね。台本も何もない段階で、この原作で彼女でいきたいと思います。どうですか?ということをお伝えしたという。

稲垣吾郎:松坂さんも今回すごい素晴らしかったです。

李相日:桃李くんも、原作の段階でお願いしに行って。本当に、“透明感“というきれいな言葉の意味じゃなくて、透明な感じしません?

稲垣吾郎:うん、わかる。なんでしょうね、あのピュアな感じ。

李相日:濁ってないというか。

稲垣吾郎:きれいなお水みたいな。何だろう、松坂さんのあの感じ。

李相日:不思議ですよね。

 

――映画を撮る上で一番大切にしていることは?

李相日:俳優さんがどう映るかが映画の生命線だなというのは、たぶんずっと追いかけていくんでしょうね。

 

――監督が松坂桃李さんに課したある制限とは?

李相日:体のシルエットが大事な役なので、撮影の3~4カ月ぐらい前から、トレーナーさんについていただいて、食事を徹底的に改善して、ただ痩せるということより、筋肉を落としたかったんですよ。ちょっと中性的な。

稲垣吾郎:わかる。すごくびっくりした。何かご褒美とかはあったのかな?

李相日:終盤のシーンがあるじゃないですか。そのシーンを撮り終えた夜に、松本市内の洋食屋さんに連れていって、「何でも食べたいものを」ということでメニューをずっと桃李くんが見てて、言葉に出たのが「雑炊ありますか?」っていう。

稲垣吾郎:〆じゃん。

李相日:急にいろいろ食べると、胃に刺激が行き過ぎちゃうんで、それをうまそうに幸せそうに食べるというか。

稲垣吾郎:そこ撮りたくなっちゃうやつだ。

李相日:『情熱大陸』があったら、ここだなっていう。

稲垣吾郎:撮りたい。それ、ドキュメンタリーとして押さえたいとこだよね、一番。

 

稲垣吾郎:撮影監督が超大物なんですね。

李相日:そうですね。アメリカのアカデミー賞も獲った『パラサイト(-半地下の家族-)』のカメラマン。ポン・ジュノさんとソン・ガンホさんもここに来られましたよね。

稲垣吾郎:はい。そう。来てくださって。

李相日:「吾郎さんの番組に出た」みたいな話をされてて。僕が『パラサイト』の現場に見学に行って、そのときにホンさんがカメラマンだった現場にいて、ご挨拶して、次やるときはちょっとオファーしたいなと思っていたんで、それで、今回、ポン・ジュノさんに聞いたら、「聞いてみたらいいんじゃない?」ってことで。

稲垣吾郎:機材とかも全然違うんですか? 普通のものとは。

李相日:レンズが、当時、日本にないレンズで、『パラサイト』でも使っているレンズを取り寄せて使いました。

 

――そんな最新のレンズを使用し撮影した、監督も驚愕したというシーンとは?

李相日:ファーストカットですよね。

稲垣吾郎:ブランコの音から。ああ、あそこ印象的なんだよな。揺らぎみたいなものが。

李相日:はい。このスロー、ハイスピード、ハイスピード、スロー。このシャッタースピードがホンさんならではかな。

稲垣吾郎:そうなんですね。カメラとくっついてるのか、ブランコに。

李相日:ブランコにくっつけるためのパイプとかいろいろ這わせて。ブランコと一体で一緒に動いてますね。

どこまで言っていいかわからないですけど、あれ、本当はファーストカットじゃなかったんですよね。

稲垣吾郎:あ、そうなんだ。結構苦しいですよね。カットするのも。

李相日:そうですね。『流浪の月』も完成尺2時間半なんですけど、一番最初に普通につないだやつは4時間です。

稲垣吾郎:えっ、うそー! 4時間もあるんですか?! それを2時間半になってるんですか?

李相日:2時間半になってます。

稲垣吾郎:それ、普通に観たいですよね。映画ってみんなそういうものなんですかね? そんなこともないですか?

李相日:「そんなことない」って怒られますね。(笑)

 

――さらに、映画にも書かせない小道具にも監督のこだわりが

李相日:財布は、映る、映らないに限らず、メインキャラクター全員、財布は選ぶんですよね。普段身につけているものは何なのかというのはやりますよね。

稲垣吾郎:ほかにありますか? 何か特に印象に残っている小道具というか。

李相日:2人が何気なく読んでいる本をどう選んでいくかというのは結構。

稲垣吾郎:へー、そうなんだ。

李相日:本の数とか、どんな本。どんな作家さんにするか。

稲垣吾郎:あの本棚も全部、一冊一冊。

李相日:一冊一冊まではあれですけど、どのあたりのジャンルを読んでるかとか。

稲垣吾郎:だけど、ピントがきてない。

李相日:はい。全部許諾とれないんで、ピントこなくていい(笑)。

稲垣吾郎:何の本があるんだろう。例えば……。

李相日:このときはまだ学生のときだったんで、古典をメインにしたんですよね。

稲垣吾郎:でもね、こういうの、俳優ってセットに入ってすごく見る。

李相日:見ますよね。

稲垣吾郎:僕、すごく本棚見る。美術さん、めちゃくちゃこだわる人いるじゃないですか。大好きな人。これ、俳優さん、間違いなく、みんな本棚見てますよ。俳優さんも台本に書かれてないところで、そういう監督とかスタッフの努力によって引っ張られていくって絶対あると思う。やっぱり2回、3回観なきゃね。