坂のせい

 

伊集院光とらじおと 2017年7月4日

 

伊集院光「何に現れるかわからないなと思ったのは、僕、高校、不登校。完全な不登校だったんですね。それで、途中1カ所すごい急坂。僕は自転車通学だったんだけど、猛烈な坂があって、そこがイヤで、いつもその手前で面倒くせーな、ただでさえ行きたくねーのにっていって、そこで学校へ行かなくなっちゃた。

それが、学校を辞めて、こういう仕事をして20年以上たって、あの坂、行ってみようと行ったの」

名越康文「すごい」

伊集院「何でもない坂だった」

名越「それ、『再突入』って言うんです。心理学用語で『再突入』」

伊集院「俺、すぐそばで会ったおばさんに「あの坂、変わったよね。なだらかに造りかえたよね」。いや、そんなことない。前からずっとこれだって」

名越「心理的にそう見えていたということでしょう?」

伊集院「そうなの。自分が辛くて行かないって思いたくないんだろうなと。この坂のせいだと」

名越「だから、20度ぐらい角度が違って見えていた」

伊集院「全然ですよ。ほんとですよ」

名越「わかる、そういうものですよ」

伊集院「たぶん5~6度の坂なんですよ。自分の中では30度ぐらいの。こんなもの、人が登れるような坂じゃないと思った記憶があるのに」

名越「この坂か、と」

伊集院「はい」

名越「もうちょっとそれから広げると、人間は今でも絶えず現実をそういうふうに見ているんですよ。今も現実そのものを見ている人なんて世界にほとんど、悟った人以外は、ブッダとかキリスト以外はいないわけ。みんなそういうふうに見てるんです。すごいいい人だと思ったら、いい人にしか見えないし、すごい敷居の高い会社やと思ったら、ごっつい自分に倒れかかってくるようなビルに見えてるし、みんな実はそうなんです」

 

伊集院「今まで名越さんの経験の中で、アプローチの難しかった人っていますか?」

名越「アプローチが難しい人がほとんどなんですけど、それはなぜかというと、他罰的になっているからですね。さっき言ったように、伊集院さんはそれが「坂のせいだ」と言っていたけど、こいつのせいだ、あいつのせいだ、親のせいだとか、あるいは兄弟のせいだとか、学校のせいだというふうに、初めは人間は絶対自分の問題を人のせいにしないと生きていけないんです。それは悪いことじゃない。悪いことじゃないけども、それを、ちょっと自分でも変えれることあるよね、というところまでがすごい長いんです。それは『防衛機制』と言って、そうじゃなくて、俺のせいだ、俺が不甲斐ないってなったら、その人、崩壊するでしょう。だから、初めは鎧を着ているわけですよ。その鎧が「あいつのせいだ」なんですよ。でも、その鎧を脱ぐ時がものすごいストレスなんです」

伊集院「しかも、無理やり脱がすのも危なそうですよね。着る理由があるわけだから」

名越「危ないです、危ないです」

伊集院「じゃ、そのカウンターで全部自分のせいだと思って受けとめられなければ、それはそれで」

名越「そう。でも、それってね、もしかしたら、ちょっと笑いのセンス、必要なんですよ」

伊集院「ああ」

名越「こんなひどい、うちの母親は鬼婆みたいな人で、こうでこうでと言ったら、クッと笑える。それ、すごいなとかっていう時に、なんか波長が合って、お互いにクスクスって笑えたら、次の段階へ行けたりするんですよ」

伊集院「ちょっとそれもわかるような気がする。それこそ落語が救いだった、みたいなところはあるから。これは馬鹿馬鹿しいことなんだ、みたいな」

名越「そうです、そうです。隠居が出てくるでしょ。隠居って社会の損得感情からちょっと引いた人じゃないですか。ほな、そういう人だと、「うちのカカアが」とかって言ってても、どっかでまあまあという時に笑いが起こるじゃないですか。ああいう、ちょっと世捨て人的な人がいたほうが。だから、精神科医でいい人は、大体世捨て人的な雰囲気を出せる人が結構多いんじゃないかなと思うんですけど」

伊集院「そうですよね。そこってあると思うんだよなぁ。カウンセリングにかかって深刻に分析されることがプレッシャーになっちゃうということは絶対あるだろうから、そこに何か適当さ、みたいな」

名越「そう。ギラギラした精神科医、ダメね」

上田まりえ「(笑)」

 

名越「先ほどチラッとラジオで言うてはったでしょ。体と心が一体やと」

伊集院「それ、すごい聞きたい」

名越「これも大事なんですよ。ちょっと教科書的な言い方ですけど、精神科の病気になられる方っていうのは、少なくとも半数以上、いや、もっとかな。僕は自分個人的には100%だと思ってるんだけど、生活習慣がガタガタになっている人多いんですよ。なんで生活習慣がガタガタになっているっていったら、もともとだらしない人じゃないんです。これもポイントで。だらしない人で生活習慣がガタガタ、これはわかるでしょう?」

伊集院「はい」

名越「そうじゃなくて、頑張り過ぎて、勉強ばっかりするとか、恋愛ばっかりするとか、あるいは仕事ばっかりして、それで自分が眠れなくなったり、食事、暴飲暴食しだしたり、それでストレス発散して生活習慣がガタガタになっている人が多いんですよ。だから、それを立て直すだけで、僕、半分ぐらい治ると思います」

伊集院「僕が見た例は、仲のいいお笑い芸人が、生放送のプレッシャーに耐えられなくて、もともとそういうことが苦手なのにもかかわらず、その仕事が舞い込んできちゃったから、毎日、始まる時間になると、時報と同時に蕁麻疹が出るんです」

名越「うわ、すごい。すごいねぇ」

伊集院「こんなことが……。僕は、心は心、体は体と思って、しかも、見てわかる。赤くなっていくわけだから。なんてことがあるんだと思って」

名越「ほんと、そうですね。一体ですね」

 

伊集院「今聴いている人の中でも、まだまだカウンセリングっていうほどじゃないんだけども、自分で気づきたいじゃないですか。ちょっと調子悪い、休んだほうがいいんじゃないかしら、みたいなサインてどの辺から出てくるんですかね」

名越「意外に思われるかもしれないですけど、覚えていただきたいのは、あれ?俺3日間、短眠、4時間ぐらいの睡眠でももってるなっていう時が危ないんです」

伊集院「ちょっと絶好調感あるじゃないですか」

名越「好調感の時が一番怖いですね」

伊集院「はあ。不自然なぐらい絶好調な時は、揺り返しのことを少し」

名越「そうです、そうです」

伊集院「これ、前兆なんだということを考えたほうがいい」

名古「これが、例えば内科だったら、お酒を飲み過ぎたら肝臓が悪くなった。だから、お酒を飲み過ぎてるところからが病気だってすぐわかるでしょう。精神科の場合はわからないんだね。でも、考えたら、その予兆がある時から病気で、それは多くの人の場合は、あれ?普段もうそろそろ、ああ、もう仕事イヤやって言ってたのに、目が爛々として、3日目でも働けてるぞっていうと、もう危険です」

伊集院「これ以上アクセル踏むのやめなきゃと思ったほうがいいし、その時に一度だけお休みとれるならお休みとっておこうと思ったほうがいい」

名越「そうです、そうです。だから、こういう言い方したら怒られるかもしれないけど、40代で一遍倒れておくのがいいのね。そしたら、ひどい目に遭ったと思うから、好調の時に一遍気をつけることできるでしょう。それが年いってからバターッといったら、もうもう復帰できません、というようなことになったら、やっぱり辛いから」

伊集院「ちょっと思ったのは、さっきからちょいちょい、精神的不調が僕にもあったんですという話をしてますけど、それでちょっと波慣れしてくるっていうか」

名越「いつ頃調子悪かったんですか?」

伊集院「一番調子悪い、20代中盤ぐらいですか。その前に僕、不登校もあるんで、(聴き取れず)やっているから、何度か大きな波は来るんですけど、もう何にもできなくなるというのが来るんですけど、でも、その先に急になんかこう、紙がはがれたみたいに素晴らしい時が来るのもわかったんで、そしたら、いつ不調来ても怖くねーな、みたいになったら、不調が来なくなってきた、みたいな」

上田「なんでしょうね、自分の中で少しコツをつかんでくる、じゃないですけど、きっかけのつかみ方がわかるようになってくる」

名越「今日に全てを、というよりは、明日につながる今日にしよう、ぐらいがいいんですよ。そうすると長持ちすると思います」

伊集院「はあ。そんな中で、絶好調な時ほど少し注意したほうがいい。ちょっと好調すぎるなつって。深呼吸したほうがいいんだ、みたいな感覚を持ったほうがいい」

名越「その時は、深酒してるような状態と一緒やと思ったらいいんです」

 

伊集院「そんな中で、精神科医として現代を見てて、今の世の中で何か感じることとかありますか」

名越「(笑)いやもう、ねぇ、例えばですよ、あんまりこんなことを言ってはいけないかもしれません。政治の状況とかそんなことを見ても、なんかみんなエキセントリックになっているっていうかね。エキセントリックになっていることが、本当に自分が好きな人がエキセントリックになっているのはそれでいいと思うんです。でも、そうじゃない人まで、そうじゃないと評価されない、みたいになってて、不思議な行動をとったり、なんか目立つ行動をとることがいいんだというふうになっててね、それは本当に好きなことをやってるのとズレてきてる気がしますよね。

ちょっと前、ほんの10年か5年ぐらい前までは、好きなことをやろう、だから好きな格好をしていいんだ、ということで済んでたのに、変なことをしないと認められない社会になってきてる」

伊集院「ちょっとわかる。わかる気がする」

名越「振り切れてしまった、いつの間にか」

伊集院「よく日本人に個性ないって言われたけど、個性ない、個性ない、個性、つぶされても、つぶされても出てくるような個性、みたいな話じゃなくて、なきゃダメだかんね!みたいなことを言われてる、そのプレッシャーみたのが世の中にあるかもしれない」

名越「そうなんですよ。ほんだら、本物が出てこなくなりますよね」

伊集院「その加減て難しいですねぇ」

名越「難しいですね。難しいですけど、僕は早くも個性を伸ばせというのではなくて、振り切れつつあるのかなと思ってます」

 

伊集院「ご本のお話を最後させていただきたいんですけれども、これ、タイトルすごいなと思うのは『SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』。すごいですね。友達100人できるかな、いっぱい友達いたほうがいいと言われて育ったんですけども、これはどんな本?」

名越「他人の目線に振り回され過ぎているというか。しかも、それが目の前の他人じゃなくて、頭の中に他人が住みついていて、あ、こう思われているんじゃないか、ああ思われているんじゃないか、俺イケてるのかな?イケてないのかな?とか、私、このままでいいのかしらっていうのが、絶えず、1人でいる時でさえ支配されているような人が、少なくとも日本国民のうちの1,000万人ぐらいはおられると思うんですよ。そうすると、いつも心が落ち着かなくて、ここで言うところのひとりぼっちになれない。逆に。ひとりぼっちになっているようで、スマホ見てるとか、スマホ切ったつもりで、そろそろ連絡しないと、とか」

伊集院「それ、すごいですよね。スマホ切ってるのに、私に誰かが今LINEを送ってきてくれて、私が読んでいないということを誰かが怒ってるかもしれない、みたいな」

名越「そうなんです。だから、1時間ひとりぼっちになってても、本当に集中しているのは10分ぐらいで、あとは、ほとんど頭の中で他人がうごめいていると。

これ一番まずいのは、そうすると、人間の能力自体が出なくなるんですよ。本当の集中力が出なくなるから、本当にいいことを発想したり、あるいは勉強が進んだり、突然パッといいことが思いついたりというような直感力も鈍ってきて、あ、俺ってこの程度のものなんだって固まっちゃうんですよ。そうすると、本来出る能力の3分の1ぐらいで固まっちゃうから、つまらない人間だと、そうなっちゃうと。だから、ひとりぼっちになるということはね、水をまかれた中でじっと芽が出るのを待っているような状態で、実はエネルギーをすごい蓄えている状態。

ところが、ひとりぼっちでエネルギーを蓄えている状態が全然みんなができないから、どんどん能力が目減りしているんじゃないんでしょうかという、そういうことを解決法を込みで書いている本でございます」