抗議デモについて

 

伊集院光とらじおと 2020年6月3日

 

アメリカで黒人男性が白人警察官に押さえつけられ死亡した事件を受けて抗議デモが起こっている)

伊集院光:今度は、コメンテーターをやってるから食いっぱぐれないという話じゃないレベルでアメリカが大変なことになっている。

パックン(パトリック・ハーラン):そうなんです。

伊集院:アメリカ代表としてしゃべらなきゃならない。ある意味。

パックン:これも結構難しいですよ。抗議デモの正義感、これは応援したいですよ。

伊集院:そうね。

パックン:1つだけ数字を紹介しますと、25~30歳の黒人男性の死因で4番目に入るのは「警察に殺されること」です。

伊集院:おーい、おいおいおい……。

柴田理恵:えー!? 4番目なの?

パックン:そう。交通事故よりも多い。糖尿病よりも多い。

伊集院:うわ、うわ、うわうわ……。僕、今、予想してたのは、もうちょっと間接的な、貧困になってさらに、みたいな話かと思ったら、すごいね、ストレートだね。

パックン:ストレートです。

伊集院:差別が貧困につながり、貧困が例えば医療不足につながり、とかじゃなくて、ストレートに。

パックン:2015年に100人以上の丸腰黒人が警察に殺されているんですよ。週2ペースですよ。

伊集院:すごいですね、それはすごいですね。

パックン:だから、司法制度を直さなきゃいけない。警察の黒人に対する態度を直さなきゃいけないという大事なメッセージを発している抗議隊は、抗議デモの皆さんは、応援するしかないと思います。

伊集院・柴田:そうですね。

パックン:ただ、その一方で、暴動が起きているのは、これは容認できないですね。

伊集院・柴田:はい。

パックン:これは結構辛い立場でもあるんですよ。そこで、我々の国民が選んだとされる大統領のこの言動も、理解も、弁解も、容認もできない。

伊集院・柴田:うん。

パックン:だから、アメリカ代表という立場は結構辛いですよ。今は。

伊集院:そうですね。

僕はどこかで、アメリカの正義感みたいなものを尊敬してきてた。どこかで尊敬していたなと思っていて。どっちの国のほうがいいとかということじゃなくて、アメリカっていうのは、正義感というところは、下手したら青臭いぐらいに頑張るんだという、世界の警察を俺はやんなきゃいけないとかを思っている国なんだと思っていたんだけど、トランプさんにおいてはちょっと違いますよね。

パックン:そうなんです。前からなんですけど、僕、海外旅行する時は、カナダの国旗をバックパックに縫いつけるんですよね。

伊集院:バックパックアメリカは背負わない。

パックン:嫌です。嫌です。日本の国旗を縫いつけてもいいんですけど。

伊集院:住んでるからね。

パックン:そう。でも、たぶん説明が大変です(笑)。

伊集院:なるほど。

それでも、選挙をやるとトランプさんが出てきちゃったわけじゃないですか。依然として、支持者は多少減ったものの、強固な人がいるわけでしょう?

パックン:40%を切ることがまずないんですよね。コンクリート層の支持が半端なくて。これもアメリカの分断、分裂の要因として理解できないんですよ。

だって、僕の親戚でも、例えば、毎週教会に通って、子どもを、道徳、倫理観をちゃんと持って育てようとしているのに、嘘つきの、税金泥棒の、今の抗議デモに対して軍を投入しようとする、憲法の修正第1条、言論の自由を守る、一番大事な権利をすぐ破ろうとする、そういう人を熱く応援しているんですよ。

柴田:どうしてだろうか……。

パックン:わかんない。本当に理解できないんです。宇宙人が国民の半分ぐらいという感じなんですよ。

伊集院:でも、逆に理解しようとすると、改めてそういうものなんだと思うのは、敵対する人を叩くことですごい団結力が上がるんだ、みたいな。今までだったら、反対の意見の人にとっても、ベストじゃなくても、ベターぐらいまではいかなきゃいけないものなんだと思っていたけど、こんなに極端にあそこを煽ると当選するんだという怖さというのが。

パックン:そうです。だから、トランプの行動は理解できない。心境は理解できないけど、作戦は目に見えるんですよ。「全国民の代表じゃない」と就任演説で言っているんですよ。おもしろいですよ、これが。

ちょっと細かい話なんですけど、就任演説で「今まで無視された人は無視されない。今日からこの国はあなたのものに戻った。取り戻した」と言ったんですけど、なるほどね、官僚とか政治家じゃなくて、国民の国だというメッセージに一瞬聞こえるんですけど、その後、続けた部分は、「あなたたちがこの運動に参加するために、何百万人もの希望で出てきました。あなたの国です」と言ったんですけど、おお、何百万人……。ちょっと待ってください。アメリカの人口って3億人を超えてますよ。何百万人の国じゃないよ。それを就任演説ではっきり表明して、その後の政策とか舵取りも、自分の支持者の何百万人のためのものだというふうにもうかがえるんです。

作戦も、分断していいから、コンクリート層がちゃんと俺に票を入れてくれれば再選はありというふうに考えています。

柴田:えー……。

伊集院:でも、それが、じゃあ、アメリカだけのことなのかというと、いろんな国に、我が国を含めて、たぶん伝播してるし、共鳴してるし、もちろん俺はしてると思うし、してるかもしれないと考えることが、すごい大切な時期に今来ていると思う。

パックン:僕も非常に大事だと思うんです。僕は、日本の民主制度も、アメリカよりは今安定しているし、さっき言っていた、相手叩きの度合いもまだいいですよ。

伊集院:そうですね。

パックン:批判はする、議論はするけど、個人攻撃はあまりしない。ネガティブキャンペーンというアメリカの選挙中に見られるようなCMは日本で流れない。一応冷静に話し合える。その規範は守られているんです。日本は。

ただ、おっしゃるとおり、分断とか、一部の人の支持でずっと、例えば、政権維持できるという、その制度の怖さはあるんです。

伊集院:ゆっくりと、ゆっくりと、僕はそれが強くなっていってるような気がしますね。

パックン:与党だって、前回の選挙のはっきりした数字を覚えていないですけど、3~4割の得票率で7割ぐらいの議席を獲得しているんですよ。だから、3割の支持でいいのかと、与党がもう少し必死に頑張らなきゃいけないような選挙制度に改正したほうがいい気がしますよね。