SPITZ草野マサムネのロック大陸漫遊記 2024年6月16日
草野マサムネ:今日は「スピッツのアルバム1曲目で漫遊記」です。今回はスピッツの曲で漫遊していきます。スピッツの各オリジナルアルバムの1曲目を聴きながら、なんでこの曲1曲目にしたのかなというのを振り返りながら進めていこうかなと思っています。
スピッツ曲で漫遊の時は、スピッツをカバーしてくれた人の曲をかけるようにしていますね。ありがたいことにいろんな方がカバーしてくれているんですけれども、最近だとNHKの『SONGS』でSuperfly(越智)志帆さんがカバーしてくれた『楓』がすごいよかったんですけれども、音源がないので、今日は、ちょっと前ですけれども、女優として有名な杏さんがカバーしてくれた『謝謝』いってみます。杏さんの声でまた全然違った世界になっててすごい嬉しかった記憶があります。それでは、聴いてください。杏さんで『謝謝』。
杏さん、2010年、オリコン26位のファーストアルバム『LIGHTS』から、スピッツの98年リリースの18作目のシングルをカバーしていただきました。『謝謝』聴いてもらいました。編曲は本間昭光さんでした。
この後は、1991年のファーストアルバム『スピッツ』の1曲目のあの曲から漫遊を始めます。
『ニノウデの世界』
草野マサムネ:まずは1991年3月25日にリリースされましたスピッツのファーストアルバム『スピッツ』の1曲目『ニノウデの世界』でした。
これね、デビューアルバムで、“あくまでオルタナを意識したバンド”というアピールをしたかったんですよね。当時はね。インディーズの時は“アコギをフィーチャーしたバンド”という見せ方だったんですけれども、あんまりそっちばっかりでもなんか違うなと思ってたので、フォークロックみたいに一面的に見られたくないという気分があったんだな。
次はセカンドアルバムの1曲目いってみましょう。セカンドアルバム『名前をつけてやる』の1曲目は『ウサギのバイク』。
これね、先ほどのファーストアルバムの反響、そんなに売れてないので、今思えば結構少ないレスポンスだったんですけれども、“オルタナを意識した変なバンド”という感じの反響はちゃんとあったので、セカンドではまたまた一転してフォークロックな感じを出そうとしたんだな。そういうところであまのじゃくが発動してしまったんだと思います。なんかね、捉えどころがないバンドでいたかったという感じかもしれないですね。
それでは聴いてください。スピッツで『ウサギのバイク』。
『名前をつけてやる』の次にリリースされたサードアルバム。これの1曲目は『星のかけら』という、またまたオルタナ風味のラウドロックから始まるんだけど、これは、オーケストラ導入の『オーロラになれなかった人のために』というミニアルバムの後だったから、それの揺り戻し? またオルタナとかラウドロックに揺り戻しがあったんだな。結構アルバム全体でも歪みのギターが多いアルバムになっていたんですけれども。
次のアルバム『クリスピー』が、またこれ一転して、ちょっとそろそろ売れないといけないなという危機感もあったので、バンド活動を続けるためにもちょっと売れないと。一生懸命頑張ってくれてるスタッフに恩返しもしたいしなみたいな、そういう意識もありまして、どポップな路線にしたんですよ。わかりやすい、ノリのいい曲から始まることでご新規のリスナーをつかもうという、ちょっとやらしい感じもあったかもしれないですけども。
でも、昔は、CD屋さんの視聴機で聴いて買ってくれる人も多かったから、やっぱりアルバムの1曲目って“つかみの曲”っていう意識が今よりすごい強かったですね。それで『クリスピー』が1曲目になったような記憶がありますけれどもね。
それでは聴いてください。スピッツで『クリスピー』。
スピッツ、1993年、4作目のアルバム『Crispy!』から『クリスピー』聴いてもらいました。
『クリスピー』の次は『空の飛び方』。これの1曲目は『たまご』なんですけれども、この時は『たまご』と『スパイダー』で1曲目すごい迷ったんですよね。でも、ゆったりリズムの、ちょっとどっしりリズムの『たまご』から、軽快な『スパイダー』のほうが流れとしていいかもってことだった気がするな。どっちともわりと最後のほうにできたキャッチーな曲だったので。でも、リズムの印象的には『たまご』のほうがゆったり感じるんですけれども、実はテンポ、BPMとしては『スパイダー』のほうが遅いんですよね。これ不思議なんですけれどもね。結果的には『スパイダー』のほうがシングルカットされて、ライブでも定番曲になったんですけれどもね。
その次がアルバム『ハチミツ』。1曲目『ハチミツ』というタイトルチューンなんですけれども、これはすぐ文句なく決まりました。スピッツのひねくれポップな持ち味がすごい出せてる曲だなということで、プロデューサーの笹路(正徳)さんも「絶対これ1曲目だよ」って言ってくれたし。これが1曲目だったから、たぶんアルバムタイトルも『ハチミツ』になったんじゃないかな。流れ的に。1曲目が例えば『あじさい通り』だったら、アルバムタイトルも『あじさい通り』になってたかもしんないですね。
それでは聴いてください。スピッツで『ハチミツ』。
スピッツ、1995年、6作目のアルバム『ハチミツ』から、タイトルチューン『ハチミツ』聴いていただきました。
次は、1996年10月23日リリースの7作目のアルバム『インディゴ地平線』。1曲目『花泥棒』ね。この頃、95年から96年というのは、スピッツにとっては、ヒット曲も出すことができまして、いわゆるブレークしたという感じで、“スピッツバブル”とかよく言ってましたけれども、そういう時期でした。すごい忙しかったですね。
『ロビンソン』、『空も飛べるはず』、『チェリー』というポップなシングルのイメージをちょっと裏切りたいなという思いもあったりして、そんでテツヤがそんな中作ってきたこの曲をあえて選んだんだですけれどもね。すごい短いし、なめてんのか?みたいな始まり方がロックっぽいんじゃないかなと。まだ若かったしね。そういうことを考えてた気がします。
それでは聴いてください。スピッツで『花泥棒』。
草野マサムネ:次は、1998年3月25日リリースの8作目のアルバム『フェイクファー』の1曲目『エトランゼ』。今思えばこの頃が一番いろいろ疲れてた気がしますね。頼ってたプロデューサーから離れたのも大きかったかな。自分でも「ちょっと癒されるような曲で始まりたいな」なんて思っていた記憶がありますね。
あと、この頃初めてコンサートツアーで沖縄に行かせてもらいまして、その後、海にハマってスキューバダイビングにハマったりしてて、ウミガメがスゲー大好きだったんですよね。歌詞の中の「ウミガメの頃すれ違っただけの」というのは、実際に海でウミガメさんとすれ違った経験からきています。
それでは聴いてください。スピッツで『エトランゼ』。
ここら辺から駆け足になっていきますが、次のアルバム『ハヤブサ』の1曲目は『今』という曲でした。基本的にはこういう短くてノリのいい曲で始まるアルバムが私好きなんですよね。ひとのアルバム聴くときもね。なので、ノリ的には『インディゴ地平線』の時の『花泥棒』に近いかもね。『ハヤブサ』は、プロデューサーの石田小吉君もイケイケロックな人だったから、その影響もありますね。
そして、次がアルバム『三日月ロック』。これ、1曲目は『夜を駆ける』という曲でしたが、このアルバムは、『三日月ロック』は今でも自分で「よくできたな」と思っていて、どの曲が1曲目でもいいかも、ぐらいな感じだったですね。一番存在感のある曲はこれかなという曲で『夜を駆ける』になったんですけれども。
次がアルバム『スーベニア』。これの1曲目が『春の歌』。この曲は実はちゃんとエピソードがありまして、アルバムの全体像が見えてきた時に、もうすぐレコーディングが終わりますよという状態の時に、当時のマネージャーの――当時のというか、今は社長さんですけれども、マネージャーのぐっちゃん(坂口優治氏)から「アルバムとしてまだなんか物足りないな」って言われたんですよ。俺も「たしかにそうかもな」って思って、最後にパッとした曲もう一曲作ろうよということになりまして、それで生まれたんですよ。なので、あの時、ぐっちゃんのダメ出しがなかったら、たぶん『春の歌」存在しなかったかもしれないという、そういう曲ですね。。
それでは聴いてください。スピッツで『春の歌』。
次のアルバムが『さざなみCD』。これは1曲目が『僕のギター』という曲でした。この頃は、ゆずとか、ストリートの弾き語りライブから人気になったアーティストがたくさん出てきまして、例えば、自分がストリートでアコギ1本で歌うんだったらこんな曲かなとかいうのをイメージして、そこから生まれた曲でしたね。なので、小雨降るストリートで歌ってるようなイメージの曲から始まるような、そういう曲でした。
次がアルバム『とげまる』の1曲目が『ビギナー』。この時はたしか、俺個人的には『えにし』っていう曲のほうが1曲目いいんじゃない?って思ってたけど、ミーティングを重ねた結果、『ビギナー』になったような記憶があるな。その後、『ビギナー』はCMで使っていただいたりしたので――あ、でも、『えにし』も使ってもらったか。どっちもありだったのかな。『えにし』が1曲目の『とげまる』もちょっとよかったかもなっていまだに思う時もありますけれどもね。
それでは聴いてください。スピッツで『ビギナー』。
スピッツ、2010年、13作目のアルバム『とげまる』から『ビギナー』聴いてもらいました。
次のアルバムは『小さな生き物』。1曲目『未来コオロギ』。この時は、『小さな生き物』という曲を1曲目でなんとなくまとまりかけてたけど、前作の1曲目『ビギナー』がゆったりしたテンポだから、軽快な曲が1曲目のほうがいいかもねという話になって、俺は個人的には『オパビニア』という曲が1曲目もいいかなと思ったけど、『未来コオロギ』になったという流れだった気がするな。結果的にはよかったと思います。
それから、またまた駆け足になりますが、アルバム『醒めない』と『見っけ』。これは最初からどっちともアルバム1曲目の曲というコンセプトで作りましたので、これはハマってると思う。『醒めない』も『見っけ』もね。タイトルチューンですけれどもね。
最新アルバム『ひみつスタジオ』の1曲目『 i-O(修理のうた)』ですけれども、これも当初、『めぐりめぐって』という、今、アルバムのラストに入っていますけれども、それを1曲目の曲として作ってたんですよ。やっぱりアップテンポの曲で始まるアルバムが好きなので。でもね、思いのほか、でき上がり、『 i-O(修理のうた)』がいい感じで録音できたので、こういうしっとりとした曲で始まるアルバムってなかったよねって思って。後々ですけど、ジュナイダ君が描いてくれた本の『ひみつストレンジャー』の物語の流れを考えると、この曲順は正解だったなと思うんですよ。1曲目、オープニングが『i-O(修理のうた)』で、ラストが『めぐりめぐって』って、結構ちゃんと物語になってて、『ひみつストレンジャー』、まだ読んでない方、ご覧になってない方、ぜひお読みいただきたいと思います。
それでは聴いてください。スピッツで『i-O(修理のうた)』。
スピッツ、2023年、17作目のアルバム『ひみつスタジオ』から『i-O(修理のうた)』聴いてもらいました。
草野マサムネ『ロック大陸漫遊記』、今日はスピッツのオリジナルアルバムの1曲目を聴きながら、なんでこの曲が1曲目だったんだろうというのを振り返りましたが、このあたりで締めとなります。最後までお付き合いいただきありがとうございました。