ヒップホップとは文脈回収

 

ACTION 2019年8月7日

 

幸坂理加:ここからはパーソナリティが見たこと、聞いたこと、考えたことなど、日常の出来事をお話しするコラムコーナー「パーソナリティアクション」です。松永さん、今日のアクションは?

DJ松永:「ヒップホップとは文脈回収」。

幸坂理加:文脈回収ですか?

DJ松永:文脈回収なんですよ、ヒップホップっていうのは。

今日、Creepy Nutsの新しいアルバム「よふかしのうた」がリリースされるんですが、今回作った私たちの作品も漏れなく文脈回収。あらゆる文脈回収を得てできた作品だなと思っていて、ヒップホップは文脈回収が非常に大事なんです。

なぜかというと、以前にも話しましたけれども、ヒップホップは、歌う人が直接歌詞を書く。しかも、自分の人生を歌詞に綴る。自分の人生を、人間を切り売りするジャンルなんですね。

幸坂理加:リアルを書くんですよね?

DJ松永:そうそう。自分のね。そうなってくると、人間と人間の表現、格闘技の煽りVを思い浮かべてほしいんです。やっぱり、知らない人同士が戦う試合より、因縁があって、コイツがこういう何々を経て、もう一回、負け越してるけど、コイツが次に勝ち星を狙うとか、もともとこういう奴だったが、こういう紆余曲折を経て、ここにまでたどり着いた、みたいな、そういう因縁、文脈があると気持ちが入るじゃないですか。

幸坂理加:うん。物語があるとね。

DJ松永:そう。ストーリーがあるとより楽しく感情移入できる。だから、ラッパーの歌詞は自分の人生を書くわけだから、過去にこういう人だった人が、今、こういう歌詞を書くんだ、みたいな。今、現状こうだけど、こうなってやるんだ、みたいなとこの背景、ストーリーが見えると、より新しい楽しみ方、楽しみ方が広がるんですよね。

幸坂理加:はい。

DJ松永:ちなみに、今回の私たちのアルバムの「よふかしのうた」の表題曲というのが、「よふかしのうた」。これは、オードリーのオールナイトニッポンの10周年の全国ツアーに我々Creepy Nutsが書き下ろしさせていただいたんですね。これもとてつもない文脈回収を得てできた作品なんですが。

だいぶさかのぼると、俺は学生時代、カーストみたいなものがあるとすれば、俺はたぶん真ん中ぐらいだったと思うんですよね。下にも上に行ききれない。一番人の目線を気にする立場だなと思っていて、上に行ききれたら楽ですよね。でも、かといって一番下のほうに行って、ちゃんと自分の世界を築けてる人、自分は特に別に抗う必要もなく、自分たちの立ち位置を理解して、自分たちの楽しい世界を作っていくっていうわけでもなく、俺は下にも行きたくないし、上にも見られたい、よく見られたい。でも、上に行くほどの度量はないが、みたいな感じ。下にも見られたくない、みたいな感じで、一番紆余曲折してる。

でも、そういう人たちがたぶん結構人口多くを占めていると思うんですが、そういう真ん中の人間だったにもかかわらず、俺の周りの仲間には、結構マッチョなタイプの仲間が多かったんですよ。だから、結構、自分の仮面をかぶって学生生活を送っていたなという記憶がすごいあって。

特に、俺ら10代の頃は、例えば『アメトーーク』の人見知り芸人とかが放送される前。だから、恥ずかしいこと、ダサいこと、かっこ悪いことを全部惜しげもなく表現して、人と傷を慰め合ったり、共感し合ったり、笑い合ったり、共有し合ったりという発想がまだ、価値観がなかったんですよ。だから、ずっとうっすら仮面をかぶって、無理して学校生活を送ってたなぁと。今思うと。だから、ずっとうっすら辛かったんだろうなと思うんですけれども。

そんな中で、2008年にオードリーがM-1優勝するわけですよ。翌年の2009年にオールナイトニッポンがスタートするんですよね。そのタイミングで、俺、深夜ラジオ好きだったから、その流れでパッと聴いた。「あ、オードリーがラジオをやってだ、ふーん」と思って聴いてたら、若林さんが、ずっと売れない頃から急にポーンとM-1で売れて、初めて芸能界という社会に出て感じる不満や劣等感みたいな悩みを全部惜しげもなくしゃべってたんですよね。それ聴いて、あれ?俺が仮面をかぶって封じ込めていた気持ちをしゃべってる人がいる。しかもラジオで、と思って。初めて俺、そこで芸能人に共感するっていう体験をしたんです。

幸坂理加:ああ。

DJ松永:しかも、その話がめちゃくちゃ笑えるんだけど、面白いってなって、単純にうしろめたいと思って封じ込めてた気持ちが、あ、人を楽しませるエンターテイメントになるんだというところにすごい救われて、そっからずっとオードリーのオールナイトに寄り添い、寄り添ってもらいながら生活をするようになったんですが。

それで、2016年、Creepy Nutsが初めての作品を出すんですが、ヒップホップはリアルを言葉にする、音楽にするジャンルですから、1枚目の作品だから、俺とR‐指定で話し合って、自己紹介的なアルバムにしたいよねって話し合ったんですよ。どうしようってなった時に思い浮かんだのが、オードリーの若林さんと南海キャンディーズの山里さんが「たりないふたり」というコンビを組んでたんですよね。それは何かというと、それこそたりない2人を笑いに、エンターテイメントに消化するっていう趣旨でやっていた2人で、これ、俺らにそのままオマージュさせてもらって、作品出すの、ぴったりかもね、というので出した作品、「たりないふたり」なんですよね。

そっから、発売日、いろいろ奇跡が起こったんです。その後に。発売日当日に、面識も何もないですよ。南キャンの山里さんが『不毛な議論』で「たりないふたり」をかけてくださる。ラジオで。

幸坂理加:えー?!

DJ松永:その後しばらくしたら、詳細は伏せますが、若林さんとすごい奇跡的なつながりがあった。若林さんと直接会ってご飯行くような機会ができてきて、そっからオードリーのオールナイトに何度も何度も、結構出てるんですけど、出させていただけるようになって、プライベートでも仲よくさせていただけるようになり、ついにはオードリーのオールナイト、俺が救われた、俺が救われたラジオ番組の10周年の全国ツアーのテーマソング、「Creepy Nuts書いてよ」って若林さんに直接連絡もらって、それで書くようにまで至った。だから、とてつもなく、10代のころからの文脈が全て回収した作品が「よふかしのうた」。

「よふかしのうた」の内容は、夜ふかし、ラジオ、初めてラジオを聴いた10代の頃、深夜に、起きちゃいけない時間にラジオを聴いてる背徳感、ドキドキみたいな、いけない世界に足を踏み込んでいるんじゃないかっていうドキドキを、そういうのをヒップホップもそうだなと思って。

ヒップホップも「よふかしのうた」って置き換えられるんじゃないかと思って、広義の意味で、深夜ラジオ、ヒップホップを「よふかしのうた」というふうに言い換えて、初めてラジオとかヒップホップに出会った原体験を曲にしたやつが、それをオードリーのオールナイトの10周年に書き下ろさせていただくという、とてつもない文脈回収を得て。

それで、2016年に「たりないふたり」を出して、その次に「助演男優賞」というのを出して、その後に「クリープ・ショー」というのを出して、その後に「よふかしのうた」、今回なんですけれども、ヒップホップはその時の都度のリアルを歌う音楽だから、「たりないふたり」を出した時は、やっぱりその時、俺ら、ルサンチマンを溜め込んで、全然俺らは評価されない。俺らのこと、誰も理解してくれないんだっていうところにちょっと卑屈な目線から出した作品が「たりないふたり」「助演男優賞」なんですけれども、そこから多少我々みたいなものでも活動が軌道に乗っていくんですよね。そうなってきたら、悩みの種類も変わってくるんですよ。ちょっと評価されるようになっているのにまだ「たりないふたり」出してたら、やっぱり整合性とれなくなってくるんです。

そうなってくると、ウソつくことになるから、それをやるとリアルっていうヒップホップ的なルールからバッティングしちゃうから、ちゃんとリアルを綴るとなってくると、「クリープ・ショー」で、俺らも成長した。いつまでも「たりないふたり」って言っちゃダメだよな。じゃ、次のフェーズに俺らも進むよっていうのを「クリープ・ショー」で提示して、「クリープ・ショー」を出した後に、よりステップアップして、自分のあらゆる現場も場数も踏んでいって、ついに俺らが自信がついてきたんですよね。

ヒップホップの一番よくある歌詞。セルフボースティングって言うんですけれども、それってよく、ヒップホップのよく聞く歌詞って、とにかく強気じゃないですか。イケイケ。俺が最強、みたいなことを書くのがセルフボースティング。それが一般的なんですが、初めて俺らCreepy Nuts、セルフボースティング、手出してもいいかも、今なら。「たりないふたり」の俺らがちゃんと段階を踏んでいって、ついに俺らセルフボースティングできるわってなって作ったのがアルバムの最後に入ってる「生業」という曲だったりするんですよね。

だから、今、現時点では俺らはそういうセルフボースティングできるメンタル、立場になってたなと思っていて。でも、かといって、これからめちゃめちゃ、ほんとにどん底で落ちて、めちゃめちゃルサンチマン100%みたいな状態になるかもしれない。そうしたらまた「たりないふたり」みたいな曲出すかもしれないです。でも、もう幸せに満たされて、どうしようもなく幸せ、幸せってなったら、そういう曲出すんですよね。ちゃんとリアルであるというルールだけをのっとっていることが大事なんだなと思って、その都度、自分の立場とか、自分が何を言うか。何を言えるか。どういう状況にいるんだろう。自分、今どう思ってるっていうのをちゃんと考えながら、ちゃんと把握しながら書くことが大事なのかなと思っていて。

だから、今回のアルバム、1曲目が「よふかしのうた」で、最後が「生業」なんですが、ヒップホップにとって大事な文脈回収、とても大きな文脈回収ができたアルバムだなと思っていて、よかったら皆さんに聴いていただきたいなという作品でございます。

じゃ、ここで1曲、その表題曲を聴いていただきましょうか。Creepy Nutsで「よふかしのうた」

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