北村有起哉映画祭

 

宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど 2021年11月26日

 

宮藤官九郎:アマゾンオーディブルで「映画大渋滞」というコーナーをやっています。その中で「北村有起哉映画祭」というのを9月に開催したんです。

北村有起哉映画祭のグランプリを受賞した役者さんが今日この番組に来てくれます。誰だと思います?

伊勢志摩:誰だろう?(笑)

宮藤官九郎北村有起哉なんですよ!

伊勢志摩:すごい!

宮藤官九郎北村有起哉さん本人が来てくれる。まず、北村有起哉さんがアマゾンオーディブルを聴いたのかどうか。ラジオのオンエアに乗ったのならともかく、自分から探りにいかなければいけないやつですからね、オーディブルは。とりにいったのか?

ちなみに、北村有起哉映画祭というのは何というのは後で話します。そして、とにかく北村有起哉映画祭のグランプリに輝いたわけですから、授賞式をする。何をあげるんですかね。クリアファイルしかないんですけど。この番組はクリアファイルとハッピーターンしかないんですけど(笑)。

そして、今日はせっかくなので、本人が選ぶ北村有起哉映画祭にエントリーしたい作品は何ですか? そして、俳優としての愚痴も聞いていきましょう。

 

宮藤官九郎:今日は、北村有起哉映画祭のグランプリに輝いた、この方が来てくださっています!

北村有起哉北村有起哉です。(拍手)♪

宮藤官九郎:すごい! グランプリの人が来るってすごいよね、この番組に。

伊勢志摩:そもそも何なんですかね?

宮藤官九郎北村有起哉映画祭が何なのか?

説明すると、僕、2019年かな、観にいく映画、観にいく映画、有起哉さんが出たんですよ。で、最初、中野量太監督の『長いお別れ』を観て、1週間もたたないうちに『町田くんの世界』を観て、『新聞記者』を観たあたりで気がついちゃったんですね。俺観てる映画、全部北村有起哉出てないか?と思って。

伊勢志摩:(笑)

宮藤官九郎:それで、それをすごく力説したんですよ。面白いと思う映画には絶対に有起哉さんが出てる。というか、最近、あの人出過ぎじゃない?みたいな。

北村有起哉:たまたま。ほかの映画を観ずに。

宮藤官九郎:そうなんです。ほかの映画を観てる中じゃなくて、たまたま邦画で観たいと思ったやつを選んで観にいったら、もしかして俺だけ?気がついてるの。

伊勢志摩:別に宮藤君は、洋画も観るし、邦画も観るし、むしろ邦画を観る分量のほうが少ないのにもかかわらず、観る邦画、観る邦画に出ていて、しかも全部が面白かった。

北村有起哉:ありがとうございます。

宮藤官九郎:そうそうそう。あの映画面白いと思うと、大体有起哉さんが出ているんだよなって話をしてて、そのうち、この映画観てて、「この映画、北村有起哉出てんじゃね?」と思って、そうすると出てくるんですよ(笑)。

伊勢志摩:途中で気づいちゃうんだ。

宮藤官九郎:気づいちゃうの。この映画もしかして、この後有起哉さん出てくるかなと思うと、出てくるんですよ。どういう感覚なのかなって。

で、北村有起哉さんの映画だけの北村有起哉映画祭というのをぜひやりたい。

北村有起哉:呼び捨てで大丈夫ですよ。

宮藤官九郎:もっと言うと“ユッキーヤ”って呼んでたんですよ。

北村有起哉:(笑)

宮藤官九郎:ユッキーヤの映画を観て、映画について語ろうって。僕、たまたま伊勢さんと大阪で旅公演中だったので、ホテル帰っちゃ、お互いに有起哉さんの映画観て、何観た昨日?って。

伊勢志摩:芝居の本番中だったんですけど、ユッキーヤのことで頭がいっぱいなの。毎日、毎日。昨日あれを観たんだけどさ、とか。

宮藤官九郎:「『太陽の蓋』観た?」「観てない、観てない」「観たほうがいい」「観たほうがいいよね」とかって、ずっと。そのうち、こうなったらご本人に登場いただいたほうがいいんじゃないかっつって。

ていうか、仕事きた時に、これ、宮藤さん喜ぶかなと思って(笑)、この役、宮藤さん喜ぶかなと思って、はないですか?

北村有起哉:いや、ないです。これからはちょっとわかんないですけど(笑)。途中から出てくる役のほうがいいんですね?(笑)

宮藤官九郎:そうそう。『ヤクザと家族』ちょっと早かったです。

北村有起哉:それ基準で迷ってる作品とかね(笑)。

宮藤官九郎:これ、受けるかどうか迷ってる作品とか聞きたいですね(笑)。それやったほうがいい、とか言いますよ(笑)。

 

伊勢志摩:こちらの北村有起哉映画祭、アマゾンオーディブルの配信では聴けるんですけとラジオの本編では放送してないんですよ。その時、どんなことを喋ってのかということで、簡単なダイジェストがあるそうなので。

宮藤官九郎:本人の前で(笑)。

 

ダイジェスト

宮藤官九郎北村有起哉が出ている映画は全部いい。北村有起哉がいい役者かどうかは別の問題だ。(宮藤官九郎:なんてこと言ってんだ)北村有起哉が出ていなくてもいい映画はある。だが、北村有起哉が出ている映画によくない映画はない。つまり、北村有起哉はいい映画に出ている役者。北村有起哉がいい役者かどうかは置いといて、いい映画には北村有起哉が出ている。第1回北村有起哉映画祭!(笑)(宮藤官九郎:ひどいこと言ってますね、すみません)

伊勢志摩:あのイカレた目つきをやるときに、宮藤君だったら笑わせに入るのかな。有起哉さんは笑わせに入ってないなって思ったわけ。(宮藤官九郎:『カンゾー先生』の話)

宮藤官九郎:そこを今村昌平は見抜いてたんだな。

伊勢志摩:見抜いてたのかな。

宮藤官九郎:あ、そうか。そういうお父さんだから、この家はこういう家だし、町田君はこういういい子に育ったんだなということを(宮藤官九郎:『町田くんの世界』)あの演技だけでわからせる。映画自体も素晴らしいが、有起哉も素晴らしい。

伊勢志摩:はいはい。

宮藤官九郎北村有起哉2回使う説っていうのもあるんですよ。ウィキペディアで調べてごらんなさいよ。みんな2回ずつ呼んでるんです。下手したら3回呼んでる人もある。

 

宮藤官九郎:ああ、よかった。大丈夫ですか?

北村有起哉:だいぶ語ってくれてたんですね。

伊勢志摩:確かに2回、3回同じ監督の映画に出ますよね。

北村有起哉:ここ最近はたまたまそうでしたね。

伊勢志摩:すごいことだと思います。素晴らしい。

宮藤官九郎:というわけで、まずは北村有起哉映画祭グランプリを受賞した北村有起哉さんにトロフィを授与させてください。

北村有起哉:いや、いや、いや、すごい!

宮藤官九郎北村有起哉映画祭グランプリ、北村有起哉殿。よく頑張った! 感動した!(拍手)(笑)

北村有起哉:重いですね。新調していただいたんですね。

宮藤官九郎:ちゃんとプロフィールに書いてくださいね(笑)。北村有起哉映画祭第1回グランプリ受賞(笑)。

伊勢志摩:主演男優賞とかナントカ男優賞とかじゃなくて、映画祭のグランプリですね。

宮藤官九郎:そうです、そうです。パルムドールです。

伊勢志摩:映画をひっくるめての賞ですもんね。俺が出ている映画の全てにおいての賞なんだ。すごい。

宮藤官九郎:そうです。そして、来年も北村有起哉映画祭ありますからね。

伊勢志摩:(笑)

宮藤官九郎:来年は違う北村有起哉が受賞するかもしれないということです。

北村有起哉:それは、年によっては該当者なし、みたいな。

宮藤官九郎:該当者なしか、北村有起哉さんか、どっちかです。

北村有起哉:そうですよね(笑)。

宮藤官九郎:だから、もらえないとショックですね。えっ、該当者ないんだ……(笑)。率直にどうですか? こういう、本人に何の許可もとらずに。

北村有起哉:ただただ戸惑ってます(笑)。

宮藤官九郎:そりゃそうですよね。すいません、本当に。

北村有起哉:でも、嬉しいですね。マネージャーがたぶん一番喜んでいると思います。

宮藤官九郎:ありがとうございます。あちらにいらっしゃいますね。

北村有起哉:ずっとニコニコしています。

宮藤官九郎:ついてきてよかった。

北村有起哉:(笑)

宮藤官九郎:これは本人がいる前で言うのも何ですけれども、伊勢さんと言っていたのは、例えば、トメとか3番手ぐらいだと、検索する時に出てきちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、本当にワンシーンとかで、絶対に忘れられないというか、あのシーンよかったもんねというのが多くないですか。

北村有起哉:いやいや、そこまで背負って芝居はしてないと思います。

宮藤官九郎:そうですか? 『新聞記者』とか、俺、見返しちゃいましたけどね。この人が新聞社の編集長……編集長ですか、あれ。

北村有起哉:主人公のデスクで舵を取ってる。上司は上司で揺れてるようなところもありましたもんね。

宮藤官九郎:あんまりそれを多く語らないじゃないですか。とか、『浅田家!』の「勝手に広げて!」って怒ってる人。あの辺とかもたまんない。あの辺から「来るな」っていう。気分としては。

北村有起哉:あれも結構たってから登場しますもんね。

宮藤官九郎:結構後半で。

北村有起哉:ガラッと変わって、舞台が。

宮藤官九郎:震災の後で、地震の被災者の人たちの写真を二宮(和也)くんと菅田将暉くんがこうやって張り付けて、被災者の人に見せてというボランティアをやっているところにいきなり入ってきて「お前邪魔だ!」っていう。

北村有起哉:そうでしたね。

宮藤官九郎:なんで本人の前で俺がやってんだ……(笑)。

北村有起哉:(笑)

宮藤官九郎:あれね。

伊勢志摩:最初に嫌な感じで登場して、実は辛い人だったっていうことの表現をしなきゃいけない。

宮藤官九郎:「まだの奴もいるんだ!」ってね。

伊勢志摩:出方っていう言い方は変ですけど、観てるほうが得した気持ちになるというか、主人公とかがずっと話を進めてたり、トメの人が出てきて渋いことを言ったりすることはわかってて観てるわけなんだけど、そこに北村有起哉さんが出ると、来た!みたいな、なんか得したみたいな気持ちになりません? 今、我々が映画祭をやっている人たちみんなそうなんだけど。

宮藤官九郎:最近、ここ何作かは、面白いかどうかはまだわかんないなと思ったときに、「面白い」という判子を押してくれてる。有起哉さんが途中で出てきたら、「これ、面白いからな」って(笑)。

北村有起哉:僕がですか?(笑)

宮藤官九郎:判子押して、そうだよ、有起哉さん出てんだから面白いよ。

北村有起哉:大丈夫だと。見続けろ。

宮藤官九郎:大丈夫だっていう太鼓判ですよ。もはや。

伊勢志摩:すごく得した気持ちになる俳優さんな気がしますね。俳優さんというか、そういう出方を。

北村有起哉:汗かいてきちゃった(笑)。

宮藤官九郎:すいません、本当に。勝手にほめて気持ち悪いですよね。

伊勢志摩:そうですね、ちょっとこっちが熱くなり過ぎてますね。

 

宮藤官九郎:そんな北村有起哉さんですが、有起哉さんがもし1本自分の出演作の中で北村有起哉映画祭にエントリーした作品を選ぶとしたら何ですか。

北村有起哉:それはやっぱり、デビュー作の『カンゾー先生』ですね。そこから全てが始まっているのは過言ではないので。

宮藤官九郎:『カンゾー先生』って本当にデビューなんですか。その前って何もしてなかったんですか?

北村有起哉:舞台のほうはやってましたけど、それこそオーディション、僕も行って。僕は、新百合(ケ丘)の日本映画学校に1年だけ通ってた時があって。

宮藤官九郎:今村(昌平)監督の学校に?

北村有起哉:そうです、そうです。なんか、なんだかなと思って、1年でやめちゃったんですね。その後にほどなくして、麻生久美子ちゃん役のヒロインのオーディションを、たまたま僕預かりの事務所の女の子が結構上のほうまでいったみたいで、そこで台本を読んだら、相手役的な若い男の子を新人で今探してるっていうんで、それで僕、その経由でオーディションに行ったんです。

だけど、行ったとたん、今村監督がいらっしゃったので、それでちょっと気まずかったんですよね。

宮藤官九郎:やめた学校の校長に会いに行くっていうこと。

北村有起哉:そうそう。だから、ゲッと思ったんですけども、「何しに来たんだお前」ってぼそっと言われて。

伊勢志摩:えっ。

宮藤官九郎:言われたんですか。

北村有起哉:言われましたね。

伊勢志摩:えっ。怖い(笑)。

北村有起哉:「ちょっとオーディションに来ました」って言って。

宮藤官九郎:それだけ、でも、逆に言うと気にしてたっていうか。

北村有起哉:そうでしょうね。ちょっと気にはなってたんじゃないですかね。

宮藤官九郎:あそこですか? 代々木上原かなんかの。

北村有起哉:そうです、そうです。

宮藤官九郎:後ろに「うなぎ」って大きく書いてある。それ覚えてないですか?

北村有起哉:僕は、ヤバッと思って、たぶん……。

宮藤官九郎:下向いてたのか。

北村有起哉:うつむきかげんだったと思いますね。

宮藤官九郎:俺行った時、僕、同じ役のオーディションを受けに行ったんですよ。したら、今村監督が座ってる席の上にでっかい額に入った「うなぎ」っていう文字が。この人うなぎなのかな?って。

北村有起哉:そうか。前回の作品のタイトルでしたね。

宮藤官九郎:『うなぎ』だったじゃないですか。『うなぎ』でカンヌでグランプリ獲ってるからだと思いますけど、「うなぎ」って書いてあって、この人うなぎなのかな、うなぎだってこと? みたいな。

伊勢志摩:わかった! たぶん宮藤さんその時ニヤニヤしてたんだと思います。有起哉さんは神妙な顔して下を向いてたのに、宮藤さんは「うなぎ」を見てニヤニヤしたから、だめだなと思ったんじゃない?

宮藤官九郎:こいつ、そもそも俺の学校来てねぇし(笑)。

その時に、何でもかんでも肝臓のせいにするからカンゾー先生っていう……。

北村有起哉:最初のシーンですね。

宮藤官九郎:麻生さんとのくだりの台詞を読んでくれって言われて、僕読んだら、監督に「君、もっとゆっくり読んでくれ」って言われて。えっ、だいぶゆっくり読んだけどなぁと思って、すごいゆっくり「カンゾー先生言うてなぁ」。

北村有起哉:(笑)

宮藤官九郎:「もっとゆっくり」って言われて、オッケーって言われて、結局、僕じゃなくてユッキーヤになった。

北村有起哉:(笑)

宮藤官九郎:で、できた映画観たら、めちゃめちゃ早口で言ってるんです。

伊勢志摩:早口っていうか、別にそんな……。

宮藤官九郎:普通のトーンで言ってて、速さじゃなかったんじゃん、もう!ってその時に(笑)。

でも、それで受かって、あの現場自体はどうだったんですか?

北村有起哉:それが、たしか全体が6月インで、ほぼオールロケーション。岡山県牛窓っていうところでフィルムで3~4カ月で。僕の出番は9月ぐらいからだったんですけども、どうせアルバイトぐらいしかしてないんだったら、早く現場にみんなと一緒に来て、先輩の芝居を間近で見学して勉強しなさいつって、監督の指示があって、最初から現場にスタッフと一緒に行ったんですけど、そしたら、ただなんてことない、人手不足なだけで、結局、追い回しのように、何から何まで手伝わされて。

宮藤官九郎:制作部とか?

北村有起哉:そうですね。制作、車止めもやるし、松坂慶子さんの仕度部屋まで野次馬を壁になって誘導したり、照明とか録音とか。録音なんか、5月とかの設定なのに蝉がワンワン鳴いてたんですよ。8月に撮影してたんで。録音部から虫かごと網を渡されて「蝉がうるさいからとってこい」つって。指差された先が森なんですよ。森から大合唱で蝉がワンワン鳴いてて、とりあえず「はい」って言うしかないから。だから、現場なんか、全然先輩たちの芝居を観るどころじゃなくて、完全にハメられたなと思いながら。

宮藤官九郎:でも、それって、結構、もしかしてあれじゃないですか? それが役にも反映されてるっていうか。

北村有起哉:スタッフも、僕がいよいよ役者として撮影に入る時は、みんなで応援してくれて。

宮藤官九郎:そうですね。そこまで働いてんですもんね(笑)。やっと役者になった、みたいな。

北村有起哉:結果的に、蓋あけて、それも全部監督の計らいだったみたいで。「こき使ってくれ」というふうに指令が出ていたみたいなんですね。それで、各部署の大親分がいて、各部署の大親分にそういう伝達されてたみたいで、だから、僕を取り合いするんですよ。

宮藤官九郎・伊勢志摩:(笑)

北村有起哉:今、照明の機材運んでんのに、美術部で「防空壕つくるから手伝え」「ちょっとまってください。今、こっちやってるんで」とか。容赦なかったんですよね。

宮藤官九郎:マスコットボーイみたいな。

北村有起哉:そんなゆとりもなく。

宮藤官九郎:監督のあれですね。

北村有起哉:そうなんです。徹底してましたね。徹底されてた感じですね。かなり叩き込まれました。

 

北村有起哉さんの「俳優の愚痴」

北村有起哉:宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど、台詞覚え、優秀な人を基準にしてほしくないんですよね。

 

宮藤官九郎:来年ももし受賞したら、また受け取っていただけますかね?

北村有起哉:それはあれですか? 前年度の受賞者から(笑)。

宮藤官九郎:そうですね。プレゼンターも兼ねてるやつですね。自分の名前読んで泣く、みたいなやつ。

北村有起哉:僕から僕へということですね?

宮藤官九郎:グランプリは、えっ?!つって芝居しながら、北村有起哉さんです!っていうやつ、やってもらっていいですか?

北村有起哉:はい。これがピークにならないようにこれからも頑張ります。

宮藤官九郎:よろしくお願いします。ありがとうございます。

北村有起哉:ありがとうございました。

 

lineblog.me