映画『あの頃。』監督インタビュー

 

FRIDAY Cruisin' Map!! 2021年2月12日

 

飯室大吾:この収録が始まる前に今泉監督のプロフィールを僕がいろいろ見ていたら、昔、NSCにいらっしゃったというのを見つけまして。

今泉力哉:そうですね。通ってましたね。大学を卒業した後、ちょうど1年間だけいて、また映画のほうに戻ったという感じです。

飯室:その時の同期の人たちが、今やすごい、ね。

今泉:かまいたち天竺鼠藤崎マーケット、和牛もそうですか。

飯室:すごいですね。ただ、NSCの頃に、やっぱり自分は映画だということで映画の世界に戻られて、今に至るわけですよね。

今泉:そうですね。放送作家とかいろいろな先生がいるんですけど、「お笑いじゃなくてお話がやりたいんでしょう」と言われたんですよ。結構。

飯室:じゃ、講師の方々は見抜いていたというか。

今泉:というか、演じ手としてのセンスがなさ過ぎたというのがありますね。

飯室:いやいや。でも、それで映画の世界に道に入っていらっしゃらなかったら、今までの数々の映画も存在しないわけですからね。

そんな今泉監督の最新作というのが、来週公開となります映画『あの頃。』ですね。

今泉:はい。ハロプロのオタクの方たちの映画というか、実際に実在の人たちの話なんですけど、登場人物の方たちが本当に大阪の阿倍野区で過ごしていたという物語になります。

飯室:原作者が劔樹人さんの自伝的なコミックエッセイで、劔さんというのは漫画家であり、バンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」、「あら恋」ですね。でベースを弾いてたり。アーティストのマネジメントというところでいくと、僕は劔さんという方を一番最初に知ったのは、神聖かまってちゃんのマネージャーとして非常に有名な方だったので、そこで知りましてという。そんな劔さんが阿倍野で暮らしていた頃に、ハロープロジェクト、アイドルプロジェクト「ハロプロ」ですよね。出会って、のめり込んでいって駆け抜けていく、その青春、みたいな。

今泉:そうですね。今、「推し」という言葉もありますけど、もちろんアイドルがそこにいたということもそうなんですけど、好きなものを通じて知り合った仲間ができていって、みたいな部分が、すごくこの映画の一つのいい部分というか、見せ所だと思ってました。本当に夢中になれるものみたいな、自分にはそこまでのものがないというか、ハマったことがなかったので、本当にうらやましいという感覚で見ながら、あ、こういう仲間がいるってすごい幸せだよなというのを思いながら作ってましたね。

飯室:例えば、僕、監督だったら、それが映画ということになるのかなとか思っていたんですけど、またそれとは違うものなんですね?

今泉:映画がそうかもなんですけど、とはいえ、本当にこう、映画を好きな人って、本当に毎日観てたりとか、1年間に300本、400本観てる、みたいな人ほどの映画愛が自分にあるかというと、そこまでのめり込んでもないので、その熱量ってすばらしいなと思いますね。

飯室:なるほど。

今回の映画を描くに当たって、リアリティというところを相当重視されたんじゃないかなと思ったんですね。ライナーノーツなんかを読ませていただいて、実際に「恋愛研究会。」という劔さんの仲間になる人たちが当時着ていたものを好意で貸してもらったりとか、あとは、スタッフの皆さんが徹底的なハロプロの時代考察とかを徹底してやったという、それ、僕すごいなと思ったんですけど。

今泉:一番本当に好きな人たちが観る時に、ウソがあると突っ込まれるんで、そこはやっぱり気をつけてやってたり、原作者の劔さんがすごい協力的に近くにいてくださったので、それこそ当時行った時のチケットの半券とかを持ってくれてて、それをもとにデザインして作ったりとかしてて。当選の時に届く封筒が青いのがあってとか、そういうのも美術部と協力して作ったりしてたんで、予告編の時点でファンの方たちが、あの青い封筒とか、あのチケットに書いてある番号は正しい番号だとか、もしかしたら俺も気づいてないけど、ちゃんと再現(?)くれてたんだ、みたいな。

飯室:この原作に描かれている時間、その時間そのものを完全再現という感じがしますね。

今泉:そうですね(笑)。

あと、本当に実在するので、あのメンバーの方たちが。その方たちが観てイヤなものにならないといいなと思ってたんですけど、「豪華すぎる再現映像だ」みたいなことを言ってくださったりとか、本人たちもその空気をおかしくないと見てくれているのはすごい嬉しかったですね。

飯室:劔さんが、主演の、つまり、自分を演じるのが松坂桃李さんだと聞いて、いや、その松坂じゃないだろう、みたいな(笑)にわかには信じられなかったそうですけれども。

今泉:最初に「松坂さん」とだけ聞いて、松坂って誰かいたかな?といろいろ考えたって言ってて。自分も最初に「松坂桃李さんどうですか?」と言われた時、「いや、やらないでしょ!」って言っちゃったし(笑)。でも、松坂さん真ん中だったら周りどうします?みたいな、いろいろ楽しみながら作っていきました。

飯室:俳優陣の皆さんも、とにかく自分が演じる人に自分がどう近づけていくか。そこに徹底した演技の演出のようだったのかなと思っているんですけど、どうですかね。

今泉:モノマネになるのも違うんですけど、例えば、猫背の空気感だったり、ある種オーラみたいなものを消すということだったりとか。

あと、根本の話ですけど、松坂さんが意外とゲームとかすごいやってたりとか。『遊戯王』とか有名なんですけど、そういうオタク気質は本人の中にもあったりとか、全く自分にないものをやってるということでもない部分もあったりしたと思うので、好きなものを公に言える仲間がいるっていうことについてすごく肯定的に語ってくださったりしているので、気持ちはすごいわかってくれてるのかな。

あとは、本当に役者さんたちはみんなすごく巧みだし、達者な人たちがいて、あと、チーム感もすごいよかったなと思っています。

飯室:「中学10年生を今やっているんだ」というそのセリフが一番印象に残っていて、大人になっても卒業できないモノやコトって誰しもあると思うんですが、かといって、一方では、あんたいい年していつまでアイドルなんか追っかけてるの? あんたいい年していつまでフィギュアなんか集めてんの?って言われちゃう世の中もあるわけですよね。ただ、幾つになっても大人になりきれない大人たちを、この映画が肯定してくれてるような、そんなものも感じるんですけど。

今泉:劇中で何度も象徴的に出てくる、「あの頃」とか、昔、学生時代が一番楽しかったというような大人の人よりも、今を一番楽しんでいるみたいなことって、すごく人生としても豊かだし、魅力的だなと思うんですけど。例えば、すごいお金がいっぱいあれば幸せとか、大きい会社に入れば安心、みたいなこともどんどん、世の中的にそれが本当の幸せなのか、みたいなものがどんどん変わっている中で、夢中になれるものがあったり、それを一緒に楽しめる仲間がいる、みたいなことのほうが全然豊かだったり、そっちのほうが幸せなんじゃないか、みたいな部分はあると思うので、一般的に言われている価値みたいなことよりも、個々人の中にある幸せみたいなことは、この映画とかを観ると気づけるのかなということと、あと、やっぱりそれって「世間の目」みたいな話だと思うんですよ。いい年してとか、この年齢になってこういうことをしてていいのかな、みたいな。でも、それって実は実態がないものだったりするので、気にしないで、もっとみんなが自分の好きなことを普通に楽しんだら、別に、ちゃんと仕事をしたりしながらだったら、別にいいのかなと思いますし、もっと堂々とそれが言えるようになってったり、選択肢が広がるということはすごいいいことなのかなと思いますね。

飯室:本当に「恋愛研究会。」のメンバーの皆さん、めちゃくちゃいい顔してはりますもんね。

今泉:そうですね(笑)。あと、俳優さんたちも結構、いろんな現場、ヒリヒリするような現場とかもある中で、「この現場はすごい楽しかった」ってみんなおっしゃってくださってて。

飯室:いやあ、素晴らしい。本当にぜひ観ていただきたいと思います。

では、最後に、監督のほうから、この映画『あの頃。』いよいよ来週公開となります。楽しみにしているというリスナーの皆さんに最後にメッセージをいただけますでしょうか。

今泉:この映画は、本当に好きなもの、“推し”というものができて、それに出会うことで、さらにそれを好きな仲間に出会ってというような、ちょっと遅れてきた青春ものみたいになっています。出会いとか、別れとか、いろいろあるんですけど、基本的には、その瞬間、その瞬間というか、今を楽しんでいる、みたいな人たちの物語になるので、何か夢中になれるものとかがある人は、アイドルとかハロプロとかに興味がなくても全然楽しめる映画になっていると思うので、ぜひご覧いただければと思います。

 

 歌う劔@桃李 pic.twitter.com/F55gCeA1uG