ずっと見てあげる

 

伊集院光とらじおと 2019年4月29日 ゲスト 達川光男

 

1955年生まれ。広島県出身。現在、63歳。

広島商業高校時代は、1973年の甲子園で、春、準優勝、夏、優勝。進学した東洋大学では、1976年の秋に東都大学リーグで優勝し、1978年、ドラフト4位で広島カープに入団しました。プロ入り後は、鉄壁の守備と卓越したリードでカープの正捕手に君臨。1984年の日本一に貢献するなど、黄金時代を築きました。

1992年に現役を引退した後は、古巣カープの監督やホークスの1軍ヘッドコーチなど、さまざまなチームで指導者として活躍しています。

現在はアマチュア野球の指導にも力を入れているプロ野球解説者の達川光男さんが本日のゲストです。

 

伊集院光:いま、いきなり来るなりご本をいただきまして、『広島力』の話、もちろんいっぱいしたいと思うんけど、パッと開いたら、僕宛てにサインをくれてて、そのサインの言葉が「平常心」。現役時代、たぶん平常心から遠そうに見えたんですけども。当たってないインコースの球を「当たった、当たった」でおなじみの達川さん(笑)。

 

伊集院光:何より聞きたいのは、広島カープ、今シーズンも順位予想すると、みんなトップに挙げてたのに、ふたを開けたらバタバタと負けたじゃないですか。みんなここから言いたいことを言い出すじゃないですか。カープには慢心があると。と思ったら、今度、バタバタバタッと連勝して、あんなことあります?

達川光男:ちょっとしたことですよね。最初、丸が抜けて、丸の3番のところに入った選手がみんなプレッシャーがかかっちゃうんですね。勝手に。だから、広島では「センター丸の穴は埋まったけど、3番丸の穴は埋まっていない」という名言ができたぐらいで。

伊集院光:あれだけ中心の精神的支柱の選手がいなくなると、変なところに力が入るものなんですか。

達川光男:というよりも、打順の流れとかなんとか、丸あたりはホームランを年間に40本近く打つ。100打点近く稼ぐ。出塁率が5割ぐらいあるんですよ。だから、打てなくてもフォアボールで出たりして、うまくつながるんですよね。力のある人がいなくなると、脇役の選手がうまくできない場合がありますよね。

伊集院光:そこまでは素人の僕らも何となくわかるんです。あれだけの選手が抜けたから。それがこんな早く復旧できると思ってないわけですよ。

達川光男:もともと投手力もあるし、選手層は厚いんで、今どきのテレビゲームの子ですから、リセットが早いんですよね(笑)。

伊集院光:自分は日ハムのファンだったり、中日と仕事をさせてもらったりするから、例えば、日ハムが優勝した次の年に開幕バタバタと負けだしたら、そのまま最下位で終わっちゃったりという経験をしているので、全然わからんもんだなと思うんですけど。

達川光男:日ハムも今年はちょっとしたたかですよ。(中略)栗山監督は、ライバルはソフトバンク1本ですからね。だから、普通なら、その場、その場で見るんですが、1年間のトータルで見てるから、最後に1ゲーム勝てばいいという。監督経験、今年で8年目だから、そういうところでペナントレースの戦い方を知ってますよね。

伊集院光:そう考えたら、今年の戦力はホークスと優勝争いをするんだという意識があるから、そのホークス中心に組み立てていくし、ホークスの誰が出てくる時に誰まで考えると。

達川光男:そう。考えてますね。

伊集院光:ローテーションが多少ずれても。

達川光男:ずらしてますね。

伊集院光:ほかのチームには勝てる力を持っているんだから。

達川光男:五分以上の成績を残せるというのは自信を持っていますので。その辺が一日の長というか、長い間監督をやってるんで、とにかくそういう形をとっていますよね。

 

伊集院光:広島はなんでこんな強くなったんですか。

達川光男:やっぱり練習量ですね。半端じゃないですね。練習量と体の強さとか、そういういろんな要素がありますよね。いろんなチームが優勝して、次の年、なかなかいい成績ができないのは、イベントとか、いろんなのがたくさんあるんですが、広島はそれがないんで。僕らも何回も優勝しましたから。

伊集院光:いやいや(笑)人気じゃないですか。

達川光男:人気はあっても、お呼ばれはあまりなかったんで。

伊集院光:よそに比べると練習時間がまだまだ割けるという。練習を邪魔されないスケジュールになっているという。

達川光男:「練習は不可能を可能にする」というオーナーの指針があるんで、それを一途に守っていますね。

 

伊集院光:いま、広島で、達川さんの目から見て、こいつ伸びる。僕は伸びそうな選手を先に知りたいんですよ。もちろん鈴木とかすごい選手になりましたけど、これから伸びそうな人は誰ですか。

達川光男:床田。これは本物ですよ。これはいいボール投げます。

伊集院光:何がいいんですか。

達川光男:腕の振りが非常によくて、真っ直ぐもスライダーも変化球も全部同じ形でくるから、相手が幻惑できる。あと、メンタルも強いですし。

伊集院光:今年、幾つぐらい勝ちそうですか。

達川光男:いま、4つ勝ってますけど、彼は肘のトミー・ジョンの手術をしてるんで、それがもてば、1年もてば、私は15は勝つと思います。フィールディングも上手ですし。投げるだけじゃなくて、その他のクイックもできる、守備力もある。そして、送りバントも上手なんです。それで、メンタルが謙虚だから。おごるところは全くないから。

伊集院光:実は、僕は若手の頃に、「お笑いで売れる奴どういう人ですか?」と言うと、大体みんな「謙虚である」みたいな話を先輩方がするんですよ。そんなの関係ねぇーだろと思っていたんですけど、関係ありますよね。

達川光男:ある。

伊集院光:伸びる・伸びないって。

達川光男:めちゃくちゃありますよ。

伊集院光:結局そこなんですよね。

達川光男:そこですね。

伊集院光:そこそこの力でも、傲慢な奴って、例えば、2軍のエースにはなるけど、1軍来ませんよね。

達川光男:そういう奴は意外とビビリンチョんが多いんですね。ビビるんですよね。

伊集院光:ちょっとわかります。お笑いも、そういうタイプ、楽屋の番長になるんですよ。でも、本番はダメなんですよ。だから、その感じはちょっとわかるようになりましたね。

 

伊集院光:広島のキャッチャーで、僕が注目する、甲子園でホームランの記録作った中村と、もう一人、坂倉という若い、二十で、2軍では、去年、敵なしなぐらい打っていたキャッチャーがいるじゃないですか。どっちが伸びます?

達川光男:モノは中村が上ですよ。ただね、考え方は坂倉が全然。年は1コしか違わないけど、坂倉は、謙虚さと向上心がある。「おい坂倉!そんなキャッチングしとったらダメだろバカタレー!」。テレビでそう言っても、次の日、「キャッチング教えてください。僕うまくなりたいんで」言うて。「お前、手見せてみぃ」言うたら、2月3日頃だったんだけど、豆まきできるぐらいの豆がいっぱいできてた。両手合わせて拝ませてもらった。というぐらいね。

 

伊集院光:坂倉選手に自分がコーチだったら何を教えたいですか。

達川光男:私は、自分が投げてるつもりでキャッチャーしなさい。そうしたら答えが出る。あれは、伊集院がここが弱いとか、腹が出てるからインコースが弱いとか、どうとかいうことを教えてもダメですね。自分が投げてるつもりで、その気持ちになると、うまくリードできるようになります。

 

伊集院光:中村に教えるとしたら何ですか。

達川光男:中村に教えるとしたら、まず体を治して、高校時代の自分の実績を捨てろと。だから、彼には、この前会ったんですけど、「お前、ちょっと宮島の弥山のてっぺんまで登ってこい」と。日本三景の一つ宮島。「あそこへ登って、朝日か夕日を見てこい。朝早いのが嫌なら夕日を見てこいと。そしたらいろんなことがわかるから」言うて。

伊集院光:すげぇ指導だな。うわあ。これは、離れているようだけども、何か感じることがあるはずだということですか。

達川光男:そうですね。宮島の弥山は、誰だったかな、ちょっと忘れたんですが、「弥山に登らずして宮島を語るなかれ」という。(弘法大師空海の言葉)

 

伊集院光:キャッチャーを育てるで言うと、ホークス時代に、いま“甲斐キャノン“て、有名な甲斐選手、もともと練習生ですよ。それを育てた実績があるじゃないですか。甲斐には何を言ったんですか。

達川光男:甲斐は、とにかくずっと見てあげるというのが大事でしたね。甲斐は7年たって、ずっとあまり見てもらってなかったんですが、ずっと見てあげて、彼、母子家庭だったというのもあったりして、お母さんをとにかく幸せにしたいというのを聞いてたし。で、素直だったですね。改名するのに、すぐ改名しましたよ。元に戻しました。あれ、甲斐拓也と言うんですよ。登録名を「拓也」にしてたんです。あいつに、「おい、拓也いうたら誰思い出す?お前がもし日本一のキャッチャーになったら、拓也いうてたら、みんな木村拓哉を思い出すぞと。甲斐て、誰もいないぞ、いま12球団で。お前、甲斐に変えろ」言うてたら、「はい」て変えたですよ。すぐ。

伊集院光:でも、これって、直接野球と関係ないように聞こえるけど、でも、このコーチ、俺のこと気にかけてくれてるんだっていうのを、そもそもドラフト上位の選手でもない人が、そう思ってもらうだけで、やっぱ違うもんですか。

達川光男:本人も、私が退団する時、それは言ってくれましたね。朝飯をホークスでは、キャンプ中は朝6時から食べるんですよ。6時から8時半の間に食べたらいいんですよ。柳田なんか8時頃来るんですよ。甲斐は必ず6時に、寝癖もしてない、髭も剃ってる。ということは、おそらく5時過ぎには起きて、いい準備をしていると思うんですよね。それを毎日続けてましたから。それで、私は、これは間違いないなと。

伊集院光:それを見てるんだ。

達川光男:それを見てくれてることが嬉しかったと言ってましたね。

伊集院光:はあ、深い話だなあ。野球の技術論は、おそらく聞いてる野球に興味ない方になんにも関係ないんですよ。だけど、今言ってることは、工場長だろうが、部長だろうが、店長だろうが、みんな関係あることじゃないですか。「お前がスーパーの前を掃いてくれているんだよな」って一言言ってもらうだけで、おそらく違うと思うんですね。

達川光男:そうですね。だから、彼の練習態度とか行動いうのをずっと見てて、いいとこだけ。褒められたことがあんまりなかったんですね。甲斐は7年間。育成で入ったもんで。最初、お前ダメだとかどうとかいうて、芸人でもそうでしょうけど、悪いとこばっかし言われるんですよね。私は新鮮な気持ちで、年も60。一回り上ですから、63ですから、失うものはないし、孫のような感じで言って。ただ、一目惚れしましたね。

伊集院光:肩?やっぱり。

達川光男:肩。びっくりしましたね。自分の25の時の肩と比べたら全然すばらしい肩してましたね。