ここで会ったが百年目

 

久米宏 ラジオなんですけど 2017年7月8日

 

久米宏「山が多い日本列島というのは、「大地」というのが、ほとんど「山」というのとほぼ同義語のようにして、「大地」というと「山」でもあったりするんですけど、不安定なところに我々は住んでいるんだということを肝に銘じておいたほうが、いざというときに、九州は今いざで、まだ雨が降っているんですけど、大地が不安定という感じは、今日お呼びするゲストとの関係も少しあるんですけど、今日、7月8日で、昨日は永さんの亡くなってちょうど1年。永さんが亡くなった時、なんかね、大地ではないんですけど、足元がちょっと不安定になる感じが僕個人的にして。

このことはこの番組で何回も言っているんですけど、もう47年前の話なんですけどね、僕は仕事がなくて、ブラブラ……今でもブラブラしているっていうことはあるんですけど(笑)」

堀井美香「ふふふふ(笑)」

久米「一応アナウンス室に出勤はしていたものの、ほとんどというか、全く仕事をしていない時期があって、その時に永さんに拾われて、今から47年前に『土曜ワイド』という番組のお手伝いをすることになって。たぶんね、それがなかったら、僕、転職してたんです。かなりの確率で。兄弟から次の職業をいろいろ、こんな仕事があるからって。

入社して3年たっていますから、それで病気ですからね、転職の可能性があったんですけど、永さんの番組に拾われて、この仕事を続けることになって、今に至っているわけなんです。

だから、言ってみれば、恩人なんですけど、恩人というぐらいの言葉で片づけるものではなくて、なんですかね。生みの親? 親分? 親方? なんて言うんですかね。だから、永さんがいなかったらここにいないんですよ。かなりの確率で。8割以上の確率で。永さんに会わなかったら、ここで君にも会っていないという、それはそれで救いなんですけどね(笑)」

堀井「ふふふふ(笑)」

 

久米「3年、入社してどうしようもなかったというのは、一種の「マイクロフォン恐怖症」というふうに、最近、僕、名づけているんですね。「マイクロフォン恐怖症」というのにかかって、どうも仕事がうまく、マイクの前で話せないという病気になって、それで体を壊しちゃったんですけど、それから47年間、ずっと仕事してるんですよ。ずっといろんな仕事をして、ラジオの仕事以外にも、テレビの仕事も多かったりしたんですけど。

つまり、永さんがいたのでこの仕事をしているわけで、たぶん永さんがいなかったら、この仕事、してないんです。だから、この仕事をしてなければ、僕、47年間仕事をした中に、もちろん楽しいことはありましたよ、いっぱい。仕事をしてりゃ、楽しいがあることは当たり前なんですけど、楽しくないこともいっぱいあったんです。あんな思いしなくて済んだという。血の滲むような、悲惨な、コンプレックスに悩まされたり」

堀井「なんであんなことを言われなきゃいけないんだ」

久米「なんであんなことを言われなきゃいけないんだ。なんであんな目で人に見られなきゃいけないんだ。なんで後ろ指を指されなきゃいけないんだ。そういうことがいっぱいあったわけ。そうすると、永さんに関する考え方もいろいろ変わってきて、47年間仕事をしてきて、僕、今、72歳なんですね、まだ。来週いっぱいぐらいまで」

堀井「(笑)今、とっても感謝してるっておっしゃってましたよね」

久米「それね、難しいんですよ」

堀井「うん、わかります」

久米「永さんがいなければこの仕事をしてなかったということになると、もし永さんがいなかったらってことをどうしても考えざるを得ないじゃないですか。人間。もし永さんがいなかったら、この仕事をしている可能性は非常に低かったとしたら、あの47年間の楽しいことも、辛いことも、いろんなことが、全部なかったんです」

堀井「ああ、そうですね」

久米「そうすると、永六輔という人に関する僕の気持ちは実に複雑なんです。あなたがいたから、今ここにいるのはわかっているけど、あなたがいなかったら、もっと素晴らしい人生が」

堀井「ふふふふ(笑)どんな人生、これ以上あるんですか、久米さん」

久米「もっと素晴らしい人生が、僕が送れたんじゃないかっていう」

堀井「不思議ですね」

久米「わりと具体的な話をすると、たぶん永さんに出会わなかったら、僕、不動産屋さんになっているんです(笑)。これ、さまざまな条件をかんがみてみると、間違いなく、僕、不動産屋さんになっています」

堀井「はい。そしたら、ちょっとこの辺、買い占めてたかもしれませんもんね」

久米「たぶんね、純金のロレックスしてますね(笑)。どっちが幸せだったんだろう」

堀井「(笑)やだなぁ、そんな久米さん」

久米「どっちがいいかわかんないんですよね。ここで会ったが百年目という言葉がよくありますけど、まさに永さんにここで会ったが百年目だったということですね。

今日、永さんのご長女がゲストでいらっしゃいます」

 

 

久米宏という人の華やかな面しか知らなかった。マイクロフォン恐怖症だった時代があったなんて知らなかった。