ライムスカッシュ感覚

 

高橋みなみ朝井リョウ ヨブンのこと 2019年7月14日

 

(朝井さんの希望により、今回は立ちトーク

高橋みなみ:埼玉県にお住まいのライムスカッシュ感覚さん。「先日の放送で朝井さんが『パートは社員の愚痴の対象にされている』と話していましたが、私はパートさんのことが嫌いです。」

朝井リョウ:すごい。答え合わせがたった2週間でできました。

高橋:「私自身、週5日、フルタイムで働く正社員ですが、パートさんは1日4時間の勤務を週4。結婚して子どもがいて幸せな家庭を持っていて、家事・育児が大変とはいえ、すぐ帰れるし、会議や行事等に参加しなくていいし、ちょっとだけ「いいな」と思ってしまいます。私はこのままずっと独身で、ずっと意味のない勤務を続けるのかもしれないと思うと、時々とても悲しくなります。」

朝井:これは深いメールというか、この人が本当に嫌いなのはパートさんではありません。

高橋:違うんですか?!

朝井:はい。この人が本当に嫌いなのは、最後の一文ですね。「私はこのままずっと独身で、ずっと意味のない勤務を続けるのかもしれない」と思う未来への不安により、人を嫌うという現象が発生しています。

これ、すごいわかるというかさ。でも、わかるよとか、軽はずみに寄り添うと、「お前ら結婚してるだろう」ということになると思うんですけど、でも、私、最近ね、先々週かな、このラジオのブログの写真が、私、安楽死の本(『安楽死を遂げた日本人』)で顔を隠しているはずなんですけど、安楽死って、今、日本じゃできないから、今、スイスの団体で日本人の方が何人か――NHKでもありましたね、番組が。

高橋:観ました、観ました。

朝井:その番組のもっと長期間で書いてある本だったの、これが。私、NHKを観ていなくて、すごい話題になっていたのだけ知ってて、本のほうだけ読んだんですけど、これは、それぞれの感覚なんですが、その本の著者の方の大前提としての考え方が、「ただ生きているというだけであっても生きているべきだ」という考え方の方っていう感じがしたんです。受け取ったのね、そうやって。でも、本当にただ生きてるだけの状態って、すごい辛いと思うの、私は。

高橋:いやぁ、難しいよねぇ。

朝井:非常に。病気になっていないとしても。今、安楽死って、すごく体に耐え難い痛みがあるとか、いろんな条件がそろっていないとできないんですけど。

だから、「ずっと独身で、ずっと意味のない勤務を続けるのかもしれないけど、時々とても悲しくなります」。悲しさでは安楽死の対象には今はもちろんならないんですが、でも、この悲しみの深さって意外と理解されずにいるなという気持ちは、すごくよくわかりますし。

高橋:うん。深いよね。

朝井:でも、周りからすればさ、ご家族もいてとか、好きなこともきっとおありで、好きな食べ物とかもおありで、楽しみがあるじゃない、みたいなふうに言われてしまうかもしれませんが、社会的に生きていることを実感できはしないけれども、自分だけがただ生きている状態ってすごい辛いじゃない。

高橋:周りの物差しじゃ自分のことを測れないよね。

朝井:そうそうそう。測れないなって思いながら読んでたの。でも、いろんな安楽死したい人が出てくるんだけど、でも、あなたにはまだ家族がいて、その人の残された気持ち、みたいなのを書いてある。それはそうなんだけど、みたいな。

高橋:そうなんだよね。そうなんだけどね。

朝井:そう。「そうなんだけど」と思っちゃう。読みながら。あなたの根底にはその考え方があるけど、この人にはない。そうじゃないという。

高橋:私も朝井さんとたぶん同じ目線で観てたわ、NHKのそのスペシャルを。めちゃくちゃいろんな人に焦点を当てているわけじゃなくて、二方が対象かな。

朝井:選んだ人と選ばなかった人がたしか出てくるんだよね。

高橋:そうそうそう。なんだけど、私もそれはそう思って観てたね。

なんか、立つとまじめになるのかな。私たちは。

朝井:えっ? イエーイ! イエーイ、イエーイ! ツーステップを踏んでます!

高橋:無理無理無理。空気感変わらないから。

朝井:ライムスカッシュ感覚イエーイ! 悲しいよね。でも、人生は悲しいものです。

(CM)(高橋:誰も食べてくんない。(咀嚼音)のジングル)

朝井:出ました。

高橋:お腹すいたわ。

朝井:たった1行、近況を送ってくれた人がいます。件名「新生活辛い」内容「ホームシック」

高橋:それで終わり?

朝井:たったそれだけ。ラジオネームとかも何もない。本当に近況を音声入力のレベルで送ってくれた方がいました。

高橋:心からだったんだろうね。

朝井:ホームシック。でも、シックと言えば高橋さんの美への執着ですが、高橋さんの美への執着はちょっと病的なものがあるなというのは巷でも話題になっておりますが。

高橋:今、自分の咀嚼音聴いて、「お腹すいた」って言ったじゃん。

朝井:はい。まさか、また控えている。

高橋:控えてます。

朝井:うわー!

高橋:もうね、なんだろう、美しさの追求をしている自分に疲れた。

スタッフ:ハハハハハ

朝井:(拍手)これはでも、さっきの実は、すごい遠いかもしれないけど、さっきの安楽死の話とつながりますよ、これは。

高橋:これ、つながります?

朝井:つながります。高橋さんの“美疲れ”は、「これ何のため?」みたいなことがあるわけでしょう、きっと。「これ、ずっとやんの?」みたいな。「何のためにずっとやんの?」みたいな。

高橋:だから、本当にそこがしっかりわかったら。モデルさんとかって直結してるじゃない。

朝井:そうね。この日、このショーまでに何キロ落とす、みたいな。

高橋:で、みんなに「きれい!」って言われて「細い!」って言われて。私、ないもん。誰も。

朝井:(笑)そうね。そうねとか言って(笑)。そういう意味じゃなくて。

高橋:難しいよね。今、結婚したてだから、結構テレビの露出の機会がちょっとまたふえていて、ありがたいなと思っているので、テレビに出る自分というところを考えると、ちょっとでもきれいにいるべきだなって思うんだけど。

朝井:そうね。周りから見ると、すごく目的があってやってるようには見えるよね。

高橋:そう。で、出演して、痩せてさ。すると、メイクさんから、テレビに映ってる自分をカメラ越しに観てくれてて、「たかみな痩せてる」。

朝井:ちゃんとほめてくれる人がいると。

高橋:「ありがとう!」って言って。でも、それぐらいなんだよね、ほめてくれるの。

朝井:そうなってくると、だから、このライムスカッシュさんもさ、子どもの頃は、放課後走ったりするだけで別に楽しかったわけじゃん。

高橋:そうね。

朝井:それで満たされてたわけじゃん。でも、どんどん。今もさ、正社員で働いているってだけでかなり恵まれてるっちゃ恵まれてるわけじゃないですか。

高橋:そうだね。

朝井:でも、こんなに悲しいと。パートのおばちゃんを憎悪してしまうぐらい、こんなに悲しいと、やっぱり慣れていくわけですよね、人はきっと。

高橋:慣れるねぇ。

朝井:目的がどんどん目的じゃなくなるぐらい、たぶん慣れていって、高橋さんは“美疲れ”。

高橋:じゃ、私も“ライムスカッシュ感覚”なんだ。

朝井:そうですよ。高橋さんは高橋さんで“ライムスカッシュ感覚”ですよ。

高橋:てか、“ライムスカッシュ感覚”って何?

朝井:高橋さんが今抱いている“美疲れ”は、“ライムスカッシュ感覚”という感覚です。それは。そういう名前のこと、これは。

高橋:そうなんですね。

朝井:これが“ライムスカッシュ感覚”。

高橋:これ、今、私が“ライムスカッシュ感覚”。

朝井:うん。夏前によく人間が陥るみたいよ。

高橋:聞いたことねぇーわ!

朝井:世間が浮かれる夏前に、みんな、ああ、私は“ライムスカッシュ感覚”だなという状況になるみたいなんですけど。

高橋:みんながいっぱい気づいてくれて、私を高めてくれるなら、やりがいもあるんだけど。

朝井:でも、なんか全然深くないな、この話。

高橋:なんでよ!?

朝井:社会的に生きていると思いたい、みたいな話ではなくなってきたな。ほめりゃいいんだと思って。

高橋:ハハッ!

朝井:ほめりゃいいのね?

高橋:ほめられたいよ。

(中略)

朝井:「これ、何のためにしてるんだろう?」っていうのは、線をつないでいくと、「もういいや、死んじゃおう」になりますから。マジで。

高橋:えっ?そこに私つながってってるの?

朝井:マジでつながってると思う、この話は。私が3月に出した小説が結構そういう話なんですけど、「何のために」を私たちは手を代え品を代え、手にとって、人生100年を頑張ってつないでるんだと思うの。

高橋:まあねぇ。

朝井:お子さんがいる人とかは20年ぐらいとか、成人して一人立ちされるまでは「自分が何のために生きているか」っていうのは一回なくなりますけれども、そうじゃない場合は、本当、手を代え品を代えよ。自分が「何のために生きているか」つーのは。

高橋:“ライムスカッシュ感覚”か。

朝井:これが、ザッツ・ライムスカッシュ。イエス! それって、でも、みんなそうなんだなというふうに思えたら、今日1日ぐらいは生きられるんじゃないでしょうか。

高橋:そうだね。

朝井:明るく終わったね。

高橋:明るかった?今。

朝井:明るく終わりました。

高橋:「ライムスカッシュ」っていう言葉が明るいだけじゃないの、これ。

朝井:そうやって1日ずつ命を延ばしていくしかないわけですから。