ここではないどこかへ

 

ACTION 2019年4月19日

 

武田砂鉄:ここからは、毎日ゲストをお招きするゲストACTION。本日のゲストは、元TBSアナウンサーの宇垣美里さんです。よろしくお願いします。

宇垣美里:よろしくお願いします。

幸坂理加:よろしくお願いします。

武田砂鉄:辞めた会社に出社するというのはどういう気分なんですか。

宇垣美里:でも、私、毎週『アフター6ジャンクション』で来ておりますので、本当に慣れたもんですよ(笑)。

武田砂鉄:幸坂さんも3月に辞めてるし、宇垣さんも3月に辞めてるから。

宇垣美里:一緒ですね。

幸坂理加:一緒です。退社同期ですね(笑)。

武田砂鉄:円満退社できましたか。

宇垣美里:もちろん円満でございます。仲よくさせていただいておりますよ。

武田砂鉄:今週、『週刊プレイボーイ』の表紙を飾ってるから。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:中吊り。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:中吊りに出るというのはどういう感情ですか。

宇垣美里:でも、私、意外とというか、電車でまだその中吊りに出会ってなくて。なので、時たま意地悪な友達から、「コンビニで見たよ」という写真が送られてくるっていう。こっぱずかしいですね(笑)。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:それに対しては特に反応はせず。

宇垣美里:いや。買ったか? ちゃんと買ったか?と(笑)。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:買ったか、そこが重要ですよね(笑)。

今回、『風をたべる』というエッセイを出されて、僕は書店員さんにすごく知り合いが多いんですけど、吉祥寺にBOOKSルーエというすごくいい本屋さんがあって、そこの名物書店員のカナモトさんという人がいるんですけど、その人と昨日連絡してたら、「宇垣さんはね、阿川佐和子超える」というふうに言ってましたよ。

宇垣美里:恐れ多い(笑)。

武田砂鉄:本当に。なかなか褒めない人なんだけど、そういうふうにおっしゃってたんで、これはなかなか書店員も今響いているんじゃないかなと思いますよ。

宇垣美里:そう言っていただけると本当にありがたいです。

武田砂鉄:本を読ませていただくと、とにかく反骨精神が通底しているなという感じがあって。

幸坂理加:ほんとそうですね。

武田砂鉄:それって、文章を書くと、自己分析するということにもなると思うんですけど、反骨精神の在り処みたいなものというのはどこにあると自分で分析しましたかね。

宇垣美里:でも、本当に、生まれた時からなんですけど、「ここではないどこかへ」とか、「決められたこうしろああしろに対しては絶対に抗ってやる」みたいな気持ちがなぜかずっとあったので、息をするようにあったものだから、なぜかというのがちょっと出てこなくって。

武田砂鉄:それがフォーマットなわけですね、自分自身の。

宇垣美里:そうですね、はい。

武田砂鉄:凄い小さい時から、冷蔵庫の中の卵をとって。

宇垣美里・幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:そこらじゅうに投げつけてたっていう。

宇垣美里:それは単純な悪ガキですよね。物心もついてないので、本当に(笑)。

武田砂鉄:悪さの方向としては悪質な感じがします。

宇垣美里・幸坂理加:(笑)

宇垣美里:ねえ。

武田砂鉄:卵を投げつけるって。悪事にも種類があって、そこまでの悪事はしなくていいだろう。

宇垣美里:母も、食べちゃいたいほど可愛いし、食べたらどんだけ楽だろうと言ってましたけどね(笑)。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:そうですね。後者のほうが強いだろうという。

宇垣美里:うん(笑)。

武田砂鉄:「ここではないどこかへ」というのは、“ここ”に対するある種苛立ちがあるわけですよね。

宇垣美里:そうですね。まあ、田舎出身というのもあると思いますし、神戸出身なんですけど、神戸といっても、本当にのどかな神戸の西の端の、海が近くて、魚がおいしくって、台風が来ると網戸が大変に潮っぽくて、というような場所で育ちましたので、まあ、狭かったんでしょうね、自分にとっては。あたりまえに「ここで過ごしていくことが幸せ」って思っている友人たちに、どこかちょっと苛立ちも感じたり、もっと遠くに行きたい、もっと遠くに行きたい、もっといろんなものが見たいという気持ちが小さい頃から強かったのかなと思います。

武田砂鉄:その気持ちは隠しながら友達と接していたのか、それとも、それは露骨に見せて、その人たちとは距離をとってたのか。そこはうまいことやってたんですか。

宇垣美里:人によると思いますけど、ただ、中学生の時にはもう「あ、ここじゃダメだ」って思って。公立だったので、いろんな人が集まるところでしたから、そう思って。でも、似たように、勉強してもっと違うところに行かなきゃって思う友人というのは必ずいましたので、その子たちと、どんなに言われようが、一番最前線の席をゲットして、そこで授業を聞いて、みたいな感じでしたね。

武田砂鉄:じゃ、「ここじゃダメ」連合というか、ここじゃダメだと思ってる友達がいた。

宇垣美里:いました。

武田砂鉄:それはよかったですよね。

宇垣美里:そうですね。

武田砂鉄:それが孤立してたらね、ここじゃダメだと思ってる奴って、やっぱりターゲットにされやすいですからね。

宇垣美里:(笑)ターゲットにされても、わりとはねのけるタイプだったので、されてたのかもしれませんけど、全然。

武田砂鉄:無自覚だった、みたいな。

宇垣美里:はい。気づかず。

武田砂鉄:それ、一番タチが悪いですよね。たぶんいじめる側も、よくないですけど、いじめ甲斐みたいなことを考えるじゃないですか。

宇垣美里:ああ、全くなかったと思います。

武田砂鉄:いじめ甲斐がないというのがたぶんすごいですね。

宇垣美里:そうですね。高校に行くと、それこそそういう気持ちを持って集まった人たちの高校だったので、非常に生きやすかったですね。いまだに高校時代の友達とずっと一緒にいますし。

武田砂鉄:でも、なんかそういう学校の同調圧力みたいなものに対して、かなり初期から嫌がっていますよね。このエッセイを読むと。

宇垣美里:そうですね。

武田砂鉄:高校時代なんかも、学校に行かずに別の路線に乗って、どこかよくわからんとこに行ってみたとかって。

宇垣美里:それはただの放浪癖ですね(笑)。

武田砂鉄:それはまた別ですか。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:反骨精神とは別の放浪癖ね。

宇垣美里:どこまで続いているのかなと思ってしまったんですよね。

武田砂鉄:なんでそこだけピュアな動機なんですか(笑)。

宇垣美里・幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:この路線どこまで続いているのかなっていう。

宇垣美里:岡山に着いたーみたいな(笑)。

武田砂鉄:「大声を出して騒ぐ男の子が嫌い」みたいなことを書いていたじゃないですか。

幸坂理加:うんうん。

宇垣美里:ああ、中学時代ですね。嫌いでしたね。

武田砂鉄:それは露骨に出してたんですか。嫌いだっていうのは。

宇垣美里:その時は出してましたね。寄ってくれるな、みたいな。

武田砂鉄:そういうことを言うと、大きな声を出す男子って逆に喜んだりするじゃないですか。

宇垣美里:最初は、見てくれが目立つからなのか、そういういたずらをしてくる人も多かったんですけど、露骨に軽蔑してたので、だんだんその人たちも近寄ってこなくなったのが、すごく、両者にとってもよかったなと思ってます。

武田砂鉄:そうですね、互いが幸せですからね、そこでね。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:なるほどなあ。

幸坂理加:「群れるのが嫌い」というのは、私もすごく思っていて、一緒にトイレに行こうとかは、私もすごい苦手だったので、恐れ多いんですが、「あ、一緒だ」と思いましたね。

宇垣美里:ほんとですか? そう言っていただけるとありがたい(笑)。

武田砂鉄:でも、世の中の一般的なイメージで、例えば、OLさんという言い方自体あまり好きじゃないけれど、よくお昼になるとOLさんがお財布を持って横並びで昼ご飯に行くとかって何となく言われるんだけど、実際、オフィス街とか見てると、おじさんのほうがわりとお財布を持って横並びで歩いてることのほうが多いんじゃないかなと思って、(幸坂理加:ああ、そうかもしれない)わりと女性のほうがどっか、それこそ公園行ってご飯食べて、お茶して、自分一人で帰るみたいのが多いから、むしろ、群れ群れなのって、今、男のほうが群れ群れなんじゃないかなって思うことが多いですけどね。

宇垣美里:全然、それで楽しい人はそれでいいと思うんですよ。一緒にご飯食べて楽しいこともあるし、私も全然行きますけど、たまには一人になりたい時もあるから、それを強要されるとなっていう、それだけのことなんですけどね(笑)。

武田砂鉄:それを、怒りを文章にそのまま注入してるっていうのが凄いなと思って。昔から『Quick Japan』の連載はずっと読ませていただいていたんですけど。

宇垣美里:ありがとうございます。

武田砂鉄:一番新しい号の「拝啓、貴方様」っていうタイトルの連載で、これ、「親友」というタイトルで、「はっきり言います。私、あなたの好きな人、大嫌い!」。

宇垣美里・幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:「マジでぶん殴りたいなって思います」っていう。「マジでぶん殴りたいなって思います」っていうことをエッセイに直接的に書くっていうのは、すごい技術の要ることでもあるし、すごくなんかパワフルな試みだなというふうに思いますけど、文章で感情を吐き出すっていうことっていうのは昔からやってたんですか?

宇垣美里:文章化するのはすごく好きで、例えば、とっても気が強かったりとか、プライドが高かったりとか、ちょっと素直になれない自分がいて、直接だと、「いいもん、別に」って言っちゃうことを、文章だと本当に素直な気持ちで伝えられることのほうが実際多くって。

武田砂鉄:はいはいはい。

宇垣美里:言葉とか表情とかって、ともすれば、思ってもないような効果を表してしまったりするけれど、アナウンサーが言うのもどうかと思いますが、言葉って、何度も何度も書き直して、何度も何度も推敲して送ることが多いですから、より自分の気持ちに近かったりとか、自分に嘘をつかないことが多いなと思っているので、より感情の近い部分だったり、ナーバスな部分については、できる限り文章化しようというふうに思ってます。

幸坂理加:エッセイの中にも「マイナスの感情は書いて供養する」ということが書いてありましたね。

宇垣美里:あれは完全にお焚き上げですね。

幸坂理加:お焚き上げ(笑)。

武田砂鉄:お焚き上げってできます? 負の感情って。

宇垣美里:でも、書いてると、すごく馬鹿馬鹿しくなったりとか、あと、簡単にコンテンツになっちゃうので、めちゃくちゃおもしろいってなって。

武田砂鉄:ちょっと外部装置化するというか。

宇垣美里:そうですね。

武田砂鉄:自分の怒りを少し外に置いて、それを客観的に見たら、結構これおもしろいんじゃないか。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:それはおもしろいと思ったら、それをお焚き上げで終わらせようということなんですか?

宇垣美里:そうですね。もしくは完全に笑い話にして友達に伝えたりとか、そういうふうにしてますね。

幸坂理加:へえ。

武田砂鉄:そうか。僕なんか本当にいつもイライラしてるんですけど、怒りの感情をすごく、ずっと根に持ってるんですよね。だから「中1のあの時の話だけどさ」みたいなことをわりと同級生とかにすると、同級生はみんな忘れてるじゃないですか。

宇垣美里:(笑)はい。

武田砂鉄:だけど、こっちは持ち出す性格なんですよね。でも、それで得したことがあるかっていうこと、ないですからね。だから、なんか外部装置化……。

幸坂理加:中1(笑)。

武田砂鉄:中1、そうそうそう。

宇垣美里:テッパンの持ちネタみたいにできちゃえば、すごく楽かなと思うんですけど。

武田砂鉄:そうなんですよ。「よっ、その話!」というふうになると、自分のある種体の中にはなかったりするものだから、よかったりするんですけど、まだ意外と中にあるっていう。

宇垣美里:フフフ(笑)怒りってなかなか鎮まらないですからね。

武田砂鉄:そうなんですよ。中1の時、僕、サッカー部だったんですけど、スギヤマ君という人が、中1でもうスタメンだったんですよね。控えのメンバーがグラウンドの脇側でランニングか何かをしてる時に、スギヤマ君が「おい、中1こっち来いよ!」というふうに言ったんですよね。

幸坂理加:アハハハ(笑)みんな中1なのに。

武田砂鉄:スギヤマ、お前も中1だろっていう、その苛立ちがもう20年来。

宇垣美里:(笑)

幸坂理加:その一言がですか?(笑)

武田砂鉄:そうなんです。

幸坂理加:すごい根に持ってるなあ。

武田砂鉄:面倒くさいタイプ。

でも、こうやって今回本を出されたり、エッセイを書かれたりすると、それまでは、自分の感情をメモ書きにしたりとか、誰か特定の人に手紙を出すっていう形だったとしても、これは公にみんなが見るわけじゃないですか。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:その時の感情の表し方というのは、手紙とかっていうのと違いました? 文章を書くっていうのは。

宇垣美里:もちろん、もちろん違いますし、何もそれがすべて本当のことだとは思ってほしくないというか。もちろん全部ちょっとずつ脚色も加えてますし、本当のことも本当じゃないことも、嘘ももちろん書いてますので、真っ直ぐ自分のことばっかりかと言われると、そうではないですけど、まあ、それも含め、読み物として楽しんでいただければというふうに思います。

武田砂鉄:こういったエッセイって、嘘書いてんの?とか、本当のこと書いてんの?どっちなの?というふうにみんな聞きたがるんだけれど、どっちでもあるというか。

宇垣美里:そうですね。

武田砂鉄:もちろん全くの嘘ではないんだけれど、そこに作品として完成させるためにはいろんなプロセスがあるんだけど、でも、なんか、これホント?嘘?というふうに単純化するほうが、たぶんね、読むほうはラクチンだからそういうふうになっちゃうんだろうし。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:でも、とりわけ、アナウンサーっていう職業だと、ここに残された言葉っていうのは、ある種そのまま受け取られやすいわけですよね。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:それはたぶんこれまでもいろんな、別に本に限らず、自分の発言が、この一部分だけ切り取られて、それがブワーッと広がるというようなことってたくさんあったと思いますけど。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:大変ですよねって、終わっちゃいますよ。そういうのを見てると。

宇垣美里:まあ、でも。

武田砂鉄:慣れました? それは。

宇垣美里:うーん、自分て相対的なものだと思っているので、その切り取られた一言とかニュアンスで私をそういうふうに思う人は、その人の中の私はそうなんだなっていう、それだけっちゃそれだけかなあと思ってるので。

武田砂鉄:それは自分の中には入り込んでこないということですか。誰かがそういうふうに思ったとしても。

宇垣美里:「違うなあ」って思うだけっていうか(笑)。「違うなあ」と思ったりとか、「あ、この人はこういう受け取り方するんだ、新しい!」みたいな感じに思うかな。

武田砂鉄:そんなポップに受け取れるんですか?

幸坂理加:すごーい!

武田砂鉄:新しい!みたいな。

宇垣美里:(笑)「すごい!その視点なかった」みたいに思います。

武田砂鉄:そうか。でも、このエッセイ読んでると、ミスキャンパスに選ばれてからアナウンサーになるっていう、そのロールモデル的なものに対して、結構ご自身でも悩んだ時もあったっていうようなことが。

宇垣美里:もちろんありました。

武田砂鉄:書いていましたけど。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:それはいつ頃から吹っ切れたものなんですか。もうしょーがねぇーな、これはっていう。

宇垣美里:まあ、でも、アナウンサーになって1~2年目ぐらいからですかね。なんか、それはそれで別の生き物として考えたほうが楽だなと。RPGのゲームをプレイしているかのように、このキャラクターはこういうふうに受け取られてるんだ。でも、それが私のすべてではないので、「ああ、そういうふうな感じもあるよね」ぐらいに。もちろんそれが残念に思う時は、「あ、このプレイの仕方はよくなかったから、次はこういうふうに表現しようって変えていこうかな」っていうふうに思います。

武田砂鉄:それは、自分の頭の中でRPGだったとしても、世間はRPGで見なくて、すごく本人という記号で見るわけじゃないですか。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:それはしんどくないんですか。

宇垣美里:うーん、もう慣れたっていうのが一番大きいですけど、それと、「おもしろくないですか?いろんな私がいるのって」って思うので、高校からとか、もっと小さい頃からの友人の思う私と、こうやって世間の思う私って全然違いますし、家族の前でも違いますし、もちろん仕事場でも違いますし、いろんな自分ができておもしろいなって思います。

武田砂鉄:幸坂さんはどうですか。アナウンサー、外に出る仕事をやってると、どうしてもそういうふうに言われることが多いわけじゃないですか。

幸坂理加:ありますね。

武田砂鉄:○だけじゃなくて×って言われることも多いわけだけど。

幸坂理加:理想のアナウンサー像というのがそれぞれ人の中にあって、それから外れてると、すごく「おまえアナウンサーなのに」とか言われてきたので、宇垣さんのその本を見て、「あ、ありがとう。言ってくれた、宇垣さん!」と思いながら読んでましたね。型にはまるのが正解じゃないんじゃないかなって私も思ってたので、なんか嬉しいなって思いながら読んでました。

宇垣美里:たまたま、私は別に言うことが苦ではないですし、あと、別に叩かれることも苦ではないので、言える人が言えばいいじゃないと思うので、それでちょっと楽になる人がいたらいいな、ぐらいの。副産物として。

武田砂鉄:でも、この本を読んでると、とにかく夜行バスで上京する場面てたくさん出てくるんですよ。

宇垣美里:あれ、ほんとしんどかったー!

武田砂鉄:矢沢永吉以来じゃないかなと思うけど、矢沢永吉が上京する時に、夜行列車で横浜で飛び降りちゃったという有名なエピソードがありますけど、宇垣さんの夜行バスの頻度ったら、よほど頭の中で相当しんどい歴史というか。

宇垣美里:短かったんですけどね。私、1社しか受けてないので、期間とすれば1カ月ぐらいなんですけど、その1カ月、1週間に1回、必ず東京に来て、行って帰って、行って帰って、行って帰って。もちろん授業はそのまま続いていてとなると、結構しんどくって。わりとギリギリだったなあと思いますね。

武田砂鉄:夜行バス乗るのってしんどいですからね、あれね。

宇垣美里:「くそー、東京の奴らは、電車1本だろう!」って思いながら(笑)。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:そうですね。こっちは毎週同じスーツ着て来てるんじゃあってことですもんね。

宇垣美里:そう。これが最後かもしれないと思うと、違うスーツが着れなくって、一張羅ばっかり着てました。

幸坂理加:へえ、意外ですねぇ。

武田砂鉄:意外ですか?

幸坂理加:はい。私は秋田出身なんですけれども、同じことをしていたんですが、宇垣さんて、こんなに美貌もあって、語学力…語学力じゃないや、語彙力も宇垣さんの言葉で伝えられていて、憧れるなって。私のほうが(上)、30なんですけど、カッコいいなと思いながら、本当に。今日お会いできてありがとうございます。

武田砂鉄:大丈夫ですか? ピリピリしてないですか? 大丈夫ですか?

幸坂理加:そうだ。ピリピリしてます? 大丈夫ですか?

宇垣美里:してない(笑)。

幸坂理加:よかったー。

宇垣美里:「女性に嫌われる」ってよくネットとかで書いてあるんですけど。

幸坂理加:えっ、女性に好かれるタイプだと思いますよ。

宇垣美里:あんまり、ほんとに嫌われたこと、そんな、人生で。どっちかというと、面倒くさいなという思いをさせられるのは大体男性だわ、と思うんですよね(笑)。

武田砂鉄:「女性に嫌われる」っていうカテゴリーを作っているのは、たぶん男の人でしょう?

宇垣美里:そう。そうなんですよね。

武田砂鉄:いろんな記事書いたり、調査をしたりしてるのは。

宇垣美里:私、だから、よくわかっていないなあと思います、そういうのを見ると(笑)。

武田砂鉄:それってすごく矛盾してて、この宇垣っていうのは女に嫌われてるらしいぞっていうふうにおじさんが言ってるっていう。矛盾してる感じがしますけどね。

幸坂理加:全然、全然。アフター6ジャンクションで宇多丸さんが宇垣さんのことを話されていて、「私、体を絞らなきゃいけないんけど、仕事で」って言いながらお菓子をボリボリ食べてたっていう話をされていて。

宇垣美里:食べるのが好きなんだー。

幸坂理加:そういうところも、なんかいいなあと思いながら(笑)。

宇垣美里:やめられないですねぇ。食べることが生きがい。

武田砂鉄・幸坂理加:ああ。

宇垣美里:だって、人生で食べる機会なんて本当限られてるんですから、おいしいもの食べ続けたいですよね。

幸坂理加:そうなんですよね。

宇垣美里:無理!(笑)

武田砂鉄:このエッセイ読んでると、言葉一つ一つに、わりと面倒くさい人だなっていうのは思って。

宇垣美里:フフフ(笑)

武田砂鉄:それはでも、自分もそうだから、すごく、ある種共感するんですけど、「あざとい」という言葉を自分が振りかけられたときに、わざわざ「『広辞苑』によると」というふうにやるの。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:これね、僕もよくやる手なんですけど。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:とりあえず落ち着いて、実は『広辞苑』によるとこういう意味がありますと。「あざとい」だと、押しが強くて、やり方が露骨で抜け目ないことというのが出ていましたと。そうすると、このニュアンスからすると悪口らしいんだけど、これをふと冷静に考えてみると、みんなによく思われたいとか、好かれたいということは、願望に向かって忠実にあるんだから、「あざとい」という言葉は別にそんなに悪い言葉じゃないんじゃないかっていうことを、わざわざ書くわけですけど。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:これを多分人前でしゃべると、「ああ、もういい。『あざとい』と言った私が悪かったから」というふうになるんだけど。

宇垣美里:そう。面倒くさいんですよ。

武田砂鉄:でも、そこで一々面倒くさいというのが大事だと思うんですよね。そうすると、ほら、次にそんなにパッと適当なことを言わなくなるじゃないですか。

宇垣美里:あ、そうですね。

武田砂鉄:宇垣さんの前に出てくる人が矯正されてくるというか、直ってくるから、そういう一々面倒くさいというのはすごく大事なことだと思いますけどね。

宇垣美里:相手は面倒くさいと思いますけどね(笑)。

武田砂鉄:でも、面倒くさいもんになった勝ちだと自分はよく思いますけどね。面倒くさい、あいつと話すと面倒くさいよということになると、ちょっとした天気の話とかされなくなりますからね。

宇垣美里・幸坂理加:アハハハ(笑)

幸坂理加:気を遣うっていうことですか?

武田砂鉄:いやいやいや、いいですけど、別にそんな、あいつに晴れだの曇りだの話してもしょうがねぇーなというふうに思ってくれたほうがいいじゃないですか。

宇垣美里:うん。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:よくないですか?

幸坂理加:うーん、ちょっと気遣うかな(笑)。

宇垣美里:ま、でも、軽率に言葉を使わなくなるので、相手が。それはすごくありがたいなと思います。

武田砂鉄:そうですよね。

宇垣美里:「女の子だもんね」とかって言ったら「うん?」て言うので。

武田砂鉄:さっきリスナーの方から、女性らしくあれということを上司に言われます、みたいなメールがあったんですけど、そういうことも、たぶん宇垣さんの前だったら、この人にそれを言ったら、「え?どういう意味ですか?女性らしいというのはどういうことか図式化してください。まず言ってください、説明してください」というふうになったら、そこに対しては、もう何も言わなくなりますからね。

宇垣美里:もちろん女性らしい格好をするのは大好きなんですけど、おまえに強要されることじゃねえ(笑)。

幸坂理加:ハハハハ(笑)

武田砂鉄:そこですね。それが一番重要なところですね。なぜそこで要請する側は、それがイコールだと思うんですかね。あれが不思議なんだよね。

幸坂理加:ハハハハ(笑)

宇垣美里:言葉遣いがすごく悪かった。気をつけよう(笑)。

幸坂理加:全然、全然(笑)。

武田砂鉄:いやいや。でも、そうやって丁寧に言葉遣い悪く遣うっていうのはいいなと思いましたよ。

幸坂理加:ねえ!素敵ですよ。

武田砂鉄:ゆっくりと冷静に汚い言葉を遣うっていうのは非常に。

宇垣美里:時々にしておきましょう(笑)。

幸坂理加:(笑)私も真似したくてもできませんからね。

宇垣美里:(笑)

武田砂鉄:そんなことないですよ。

幸坂理加:本当ですか。本当にロックだなと思います、宇垣さん。

宇垣美里:ロックですねぇ(笑)。

武田砂鉄:でも、かなり昔から結構本はたくさん読んで、今でも週に2~3冊読む、みたいなのを読みましたけど。

宇垣美里:そうですね。大好きですね。

武田砂鉄:それはジャンル問わず。

宇垣美里:雑食です。たぶん活字中毒なんだと思います。でも、自分じゃないどこかに行くのがすごく好きなんでしょうね。それは旅にも共通していることですけど、全く自分のいない世界を体験できるじゃないですか、本を読んでいると。その全然知らない世界を覗き見て、そこで共感したり、なんかウルッときたりっていうのが、日々の活力につながっていっているのかな、私の場合って思います。

武田砂鉄:山田詠美さんがお好きって書かれていて。

宇垣美里:大好きです。

武田砂鉄:僕も山田さんすごく好きなんだけれど、まさに自分のいない世界の小説を読んでるんだけど、山田さんの本とか読んでると、いきなり自分に矢印を指されて、というような言葉が出てきたりするじゃないですか。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:あれがやっぱり、小説のある種怖さでもあるし、醍醐味でもあるんだろうなと思いながら、いつも読んでますけどね。

宇垣美里:あんなに日々の尊さをきれいな言葉に言語化してくださる人ってなかなかいないので、本当、宝物みたいな言葉がたくさんあるなって思います。

武田砂鉄:極度の活字中毒の人と話すと、手元に読むものがないと、道路工事の予定、月曜日どうするとか、火曜日どうする、みたいなあの看板を見ちゃうという人がいますからね。

宇垣美里:うんうん。

幸坂理加:ええっ!?

宇垣美里:シャンプーの裏とか見ます。

武田砂鉄:そうそう。

幸坂理加:ええーっ!?

武田砂鉄:成分とかでしょ?

宇垣美里:お風呂の中で暇になったら、スッと見たりします。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:それ、本当に活字中毒じゃない人に言うと、ひえーみたいになるんですけど、欲しい欲しいってなるのよ。

幸坂理加:欲するんですか、活字を。

宇垣美里:なんか読みたい(笑)。

武田砂鉄:なんか読みたい。僕、新宿から20分ぐらいのところに行くってなると、その20分で本がないとなると大変だから、新宿にある本屋さんで1時間ぐらいかけて本を選んだりするんだけど、着いてるぞっていうことだね。そのまま電車に乗ってれば。

幸坂理加:(笑)

宇垣美里:悩んでる時間ね。

武田砂鉄:だけど、その20分がダメなの。何もないと。

幸坂理加:へえ。

武田砂鉄:それ用に本を買わなきゃいけなくなっちゃって。

宇垣美里:もったいないと思っちゃうんですよね。

武田砂鉄:もったいないということですよね。

幸坂理加:メッセージが届いています。宇垣さんへのメッセージご紹介しますね。

本を読ませていただいて思うのは、宇垣さんは、アナウンサーの実力だけではなく、本当に文才がありますよね。

宇垣美里:ありがとうございます。

幸坂理加:『サンデージャポン』でゲストに出演した時に、宇垣さんのことを古舘さんが「本当に文才がある」と褒めていたのも納得です。引き込まれる文章ですよね。これからもエッセイを書いてくださると嬉しいです。将来はもしかして小説を書くこともあったりして、と想像してしまいます。

武田砂鉄:編集者はすぐ小説を依頼してきますから。この世の中はね。それはもし言われたらどうなんですか。小説って言われたら。

宇垣美里:まあ、まあ、おこがましいですけど、でも、本当に書くことは好きなので、今はエッセイですけど、いろんな書き方ができるようにはなりたいなと思ってます。言語表現も好きだし、何か思った事象を言語化するのがたぶんすごく好きで、パズルを当てはめていくように。それの一つの形として小説があるんだとすれば、それを出すか出さないかはわからないけど、その技術は体得したいなと思います。

武田砂鉄:また、エッセイを書くのと、小説を書くのと、全く、技術というか、アプローチも全く違いますからね。

でも、本の中に出てきた、先輩から言われた「全員を後悔させてやれ」っていう言葉はすごく素敵だなと思って。

幸坂理加:うん、本当に。

武田砂鉄:幸坂さんは会社辞めたてだけど、僕も会社を辞めたのは4~5年前なんだけど、いいって思う人と悪いって思う人がどうしても出てくるじゃないですか。その反応を見た時に。その時に何を思ったかというと、この言葉を聞いて、そう思った。「全員を後悔させてやりたい」というふうに思うっていうか。どうしてもあることないこと言ってくる人もいるし、ある種失敗するのを見届けたい人たちも絶対どこかにいるから。

宇垣美里:もちろん。

武田砂鉄:そうすると、そこに対して「全員を後悔させてやれ」っていうのは、いい言葉だなと思いましたね。

宇垣美里:それを残る先輩が言ってくださったというのが何よりも。

武田砂鉄:そうね。それがすごい素敵なことだなというふうに思いますね。

宇垣美里:本当に恵まれていました、私は。

武田砂鉄:そろそろお時間ということなんですけど、まだフリーになられたばかりだというふうに思うんですけど、これからのことも多いと思うんですが、これからこういうことをやりたいというようなことって頭の中にあります? 別に言わなくてもいいですけど。

宇垣美里:少なくとも、まだまだやってみたいこととか、やったことがないことがあまりにもあふれているので、一つ一つそういうことにチャレンジしていきたいなと思います。えっ、結局これやりたかったの?じゃなくって、何でもできるんだよって言いたい(笑)。

武田砂鉄:何でもできるんだ。

宇垣美里:チャレンジすることは別に権利は要らないと思っているので、いろんなこと、試してみて、あ、これじゃなかったなとか、これだったなとか、そういうふうに一つ一つ確かめて、いろんな景色を見れたらなというふうに思います。

武田砂鉄:来週は『anan』の表紙もやるっていうのですごい話題になっていましたね。

宇垣美里:そうなんですよ。週3でジム行って、本当大変で、頭に酸素いってなかったんですよ。ケータイを洗濯しちゃってね、大変でした(笑)。

幸坂理加:(笑)

武田砂鉄:ケータイを洗濯した結果が出てるんですね。

宇垣美里:はい。

武田砂鉄:ということで、本日のゲストACTION、宇垣美里さんでした。ありがとうございました。

幸坂理加:ありがとうございました。

宇垣美里:ありがとうございました。