兄貴の話

 

古舘伊知郎オールナイトニッポンGOLD 2019年2月8日

 

 

モロ師岡甲本雅裕がゲスト。

 

古舘伊知郎「今日は、京都から急遽来てくれたり、キーシンの戸川さんこと甲本さん、お兄さん、有名なブルーハーツから始まる伝説の、生ける伝説じゃないですか。甲本ヒロトさんのお兄さん。で、お兄さんのこと、普通、兄貴の話ばっかりしないでよって、そういう感じの弟さんかなと勝手にちょっと内心思ったら、全然そうじゃなくて、お兄さんの話も惜しみなくしてくれて」

甲本雅裕「いやいや、でも、最初はですね、始めた頃はいろいろあったんですよ。なんで言われなきゃいけないんだっていうのはよくあったんですよ。始めた初めての舞台でもアンケートが「兄貴、才能あるけど、弟ダメだな」とか書いてあって(笑)、いやいや俺始めたばっかだし、みたいなのはあったんですけど、でも、最近になってくると、数十年たつと、ここまで古舘さんとも話してても、あ、ブルーハーツ、あの頃は、今、クロマニヨンズ、やっぱり凄いよねっていう話をしてくださるじゃないですか。兄ちゃん、もしかしたらすげぇのかもしれないなっていうのを、やっと今になって自覚し始めたというか」

古舘伊知郎「いい時会ったわあ。やっぱ、それは若ければ若いほど抵抗感あるよね」

甲本雅裕「そうですね」

古舘伊知郎「兄弟でライバルだしね」

モロ師岡「兄弟比較されたくないですからね」

古舘伊知郎「モロさんはどうですか?」

モロ師岡「私の兄弟ですか?」

古舘伊知郎「うん」

モロ師岡「兄弟は普通の人ばっかりですから」

古舘伊知郎「じゃ、あんまり比較対象にならないんだ」

モロ師岡「ならないですね」

古舘伊知郎「そういう意味では甲本さんはちょっとしんどいかもしれないですね」

モロ師岡「僕なんか帰ると、兄貴とかが、僕みたいのでも周り近所に自慢したくなるらしくて、連れて、車に乗せて、「弟を連れてきましたよ」と引っ張り回すんですよ」

古舘伊知郎「可愛くもあるけど、うざくもあると」

モロ師岡「ちょっと面倒くさいですね」

甲本雅裕「絶対そうですね。親父だってそうでしたもん。兄貴がデビューするまでは、「絶対に許さんぞ」とか言って、売れたら「ファンになったなあ」って、急にですからね(笑)」

古舘伊知郎「可愛いですね」

甲本雅裕「なにクリーニング屋のカウンターでレコード売ってんの?っていう」

 

(中略)

 

古舘伊知郎「話変えて悪いけど、お兄ちゃんはなんで何も気にしないで、武道館のあの初っぱなの、ブルーハーツ大爆発のビッグバンの、武道館を満杯にした大コンサートの朝の話をちょっと聞かせてください」

甲本雅裕「初めて武道館をやるという日、僕ちょうど東京に遊びに来てて、兄貴の、その時まだ兄貴、6畳の一間のアパートだったんですよ。なんで越さないのかなと思ったら、「面倒くさいから」みたいな感じだったんですよ。

武道館の前の日、俺が凄い緊張しているわけですよ。僕は剣道の試合でよく武道館へ行ってたんだけど、そこをワンマンで、1人じゃないけど、バンド4人でいっぱいにする奴ってすげぇな」

古舘伊知郎「凄いよ」

甲本雅裕「ベッドに兄貴が寝てて、僕はその下で寝てたんですけど、なんかね、もう眠れなくて。月明かりがすごく明るく感じるんです、その日は」

古舘伊知郎「うわあ」

甲本雅裕「うわあと思って、それで、兄貴をたまに見てるんですけど、ぐっすり寝てるんですよ」

古舘伊知郎「凄い」

甲本雅裕「ほんで、朝、昼頃ですかね、起きて。俺はもう朝から起きてるんで、行かなくていいのかなあとかって。「兄ちゃん、そろそろ行かなくていいの?」って言ったら、「うん、行く行く」って言って、あの人パンツ穿かなかったんで、その上にフリチンでジーパン穿いて、上はラクダの下着あるじゃないですか、U首のグルンと伸びた。それを着て寝てたんですよ。で、タオルは普通の日本…、普通のタオルを頭に巻いて」

古舘伊知郎「白いタオルをギュッと巻いて」

甲本雅裕「白いの巻いて、「じゃあ行くわ」って言うから、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と。「衣装とかそういうのはどうすんの? 向こうにあるの?」って言ったら、「おん? もう着とるよ」。えっ、えっ?」

古舘伊知郎ラクダのUネックと白いタオル巻いてジーパンで」

甲本雅裕「はい。「もう着とるよ」って言うから、いや、まさかと思いながら、そのまま出ていったから、で、ステージ行ったら違うだろうと思って、コンサート会場行って、武道館行って、待ってて、うわーっとファンが盛り上がってバンと出てきたら、同じでしたね」

古舘伊知郎「(笑)ラクダのUネックに、それが衣装」

甲本雅裕「衣装で。それで最後まで歌って」

古舘伊知郎「めちゃかっこいいじゃないですか」

甲本雅裕「その時、下北のアパートだったんですけど、「俺、じゃ、先帰ってるわ」って言って、「じゃあ、俺も帰るわ」って言って」

古舘伊知郎「弟も興奮してる。雅裕さんも」

甲本雅裕「興奮してる。帰ってきたら、兄貴がそのまま帰ってくるんですよ」

古舘伊知郎ラクダのジーンズに白いタオルで」

甲本雅裕「ああ、そのまま帰ってきたと思いながら、「雅裕、風呂行こう」って言って、そのまんまの格好で」

古舘伊知郎「その当時、深夜まで、場所柄、下北だと、やってる銭湯があるんだ」

甲本雅裕「あるんですよ。下北の街中歩いて、一番街商店街にある八幡湯というところがあるんですけど、そこに行って、シャワーぐらい浴びて帰らないのかなとか思いながらやってて、僕は先に湯船に浸かっていたんです。兄貴が洗っているのも見るわけでもなしにボーッと見てて、パン!と音がして、見たら、兄貴の横で若者がぶっ倒れてるんですよ。どうしたのかなと思ったら、「ヒロトさん、今、み、み、観てきました~」って」

古舘伊知郎「うわあ」

モロ師岡「びっくりするよねえ」

古舘伊知郎「最高じゃん、ファンとしては」

モロ師岡「武道館にいた人が今度銭湯にいるわけですからね」

甲本雅裕「そうしたら兄貴が「本当? 楽しかった?」って言ってました」

 

(中略)

 

古舘伊知郎「弟もおしゃべりで凄いけど、兄も凄いなと思うのは、菊之助さんが『下町ロケット』やってる時に、2人はまだリハーサルにいたのかな。「そうだ!」って言ったんですよ、あの人が。珍しく興奮したの、あの真面目な菊之助さんが。「そうだ! 甲本雅裕さんのお兄さんが中村獅童とロックバンド時代のつき合いがあって、披露宴に来た。その時にお兄さんがめちゃくちゃ、古舘さん」、その時だけは初めて興奮してる菊之助さん、「めちゃ面白いことをお兄さんは言ったんですよ。それを弟さんに伝えたいんだけど、喉まで出かかっているんだけど、セリフが出てこないで、急に思い出しました、今」って行田で。

「なんて言ったんですか? 甲本さんのお兄さんは」と言ったら、友達の中村獅童さんに向かって、マイク持って、「クロマニヨンズの甲本さんが来てるんで、挨拶を一言」って言われて、「はい、わかりました」って飄々として例によってお兄ちゃん出てきて、獅童さんに向かって、「あのね、あのね、獅童君ね、これだけは言っとくよ。とにかくね、乱れた生活してる人と破天荒な歌舞伎役者って違うからね。おめでとう」つったらしいです。歌舞伎役者の人たち、列席した人たち、ばかウケらしいですよ。ご参会の方々は。それはそうだ。めちゃいいことを言う。ちょっとからかっているでしょう。あったかいでしょう、なんか。毒舌入っているようで。うまいよねえ」

 

(中略)

 

古舘伊知郎「僕はその現場にいないけど、忌野清志郎さんが亡くなった時に、お兄さんがいい弔辞を一人として」

甲本雅裕「なんかしてましたね」

古舘伊知郎「なんでしたっけ、あれ」

甲本雅裕「まず、ピックをもらってた。そのピックを、「このピックどうすればいい? もう、でも、要らないね。もらうよ」って」

古舘伊知郎「遺影に向かってね」

甲本雅裕「遺影に向かって「もう要らないよね。じゃ、もらっとくね」って言って、「じゃ、しまうからね。本当にしまうからね」って言ってポケットにしまったっていう」

古舘伊知郎「その後に、これ以上言わないってなんでしたっけ。ファンが」

甲本雅裕「「ファンの人、いっぱい来てるけど、僕は「ありがとう」って言わないから。あなたが言うべきだ」って言ったのを聞いて」

古舘伊知郎「忌野さんの遺影に向かってそういうことをサラサラっと」