そういう世界で生きてきている

 

伊集院光とらじおと 2018年2月27日

 

伊集院光「今朝は、中日ドラゴンズ松坂大輔投手にお話を伺います。よろしくお願いします」

松坂大輔「よろしくお願いします」

伊集院「練習が終わったばかりのところなんですけども、どうですか?今のところ、キャンプの仕上がり具合みたいな」

松坂「すごい周りがかなり早いペースで仕上げていっている中で、のんびりやらせてもらっているんですけど、焦らないように、順調にやれています」

伊集院「たぶん若い頃だったら、どんどんそういうのに巻き込まれていっちゃうじゃないですか」

松坂「やっぱり、逆に自分が見せてやる、ぐらいの感じでいっちゃうと思うんですけど、もうそれも、それやっちゃうと自分の体に無理がくるので、自分の気持ちを抑えながらやっています」

伊集院「本当にそのあたりのシビアなことを聞きたいのが、けがとつき合うここ何年かって、すごく調子がいいと思ったら、自分もすごく期待が自分の中で上がっているところに、また衝撃的な痛みとか、出るわけじゃないですか」

松坂「はい」

伊集院「ここ何年かの気持ちみたいなところから聞かせてもらいたいんですけど」

松坂「7~8年ですかね、肘の手術もあって、肩の手術もあって、その都度その都度、いい状態をつくろうといろんなことを試しながらやって、年によっては、あ、今いい状態できてる、今年は大丈夫そうだな。去年なんかはそうだったんですけど、やっぱり自分が経験したことのないまた痛みが出たりして、正直、どう進んでったら投げられるようになるんだろうなって思いながら過ごしてる毎年ですね。ここ何年かは」

伊集院「そんな中で、松坂投手が今目指してる完成形みたいものって、先発完投なのか、もっと言えば、中継ぎでもいいのか、どういうピッチャーになるんですか」

松坂「やっぱり僕の理想としては、先発をやらせてもらって、先発するなら最後まで投げ切りたい。ただ、若い時とは違って、最初から最後まで力で抑えられるかどうかっていうのは、正直難しいと思うので、年齢なりというか、今年20年目なんですけど、それなりの経験をしてきたので、そういうものを使って、どんな手を使ってでもバッターを抑えて、先発できるんだったら、最後までマウンドに立っていたいですね」

伊集院「僕、50になって、すごく興味があるのは、体力は当然ピークでは、僕らの仕事ですら、なくなってくるんですよ。だけど、勘だとか経験値で絶対補えるっていう意地みたいなものがいつもあるんです。なんか、野球の中でそういうバランスってありますか」

松坂「絶対ありますね。若い子が元気のあるボールを投げていて、昔の自分を見ているようだなって思うんですけど、周りの人に、実際、試合で投げてどうなんですか?っていうと、なかなか試合じゃ難しいんだよ。なかなか勝てないんだよというと、やっぱりそれを見て僕はぴんとくるというか。僕は体さえしっかり整えることができれば、彼らよりはゲームをつくることはできるっていう自信はありますね」

伊集院「僕ら、やっぱり数字が高い、何キロが一番いいストレートだと思ってるんです。でも、今の松坂さんにとって、いいストレート、いい球って何ですか」

松坂「やっぱり、スピードが出てなくても、空振りはとれないかもしれないですけど、ファールだったり、バッターがちょっとタイミング、野球だと「差し込まれる」って言うんですけど、これはバッターが思ったよりもピッチャーの球が速く感じることで振りおくれることなんですけど、そういうのは見てもわかるところだと思います。

例えば、僕でもいいですけど、「松坂140キロぐらいしか出てないけど、全然前へ飛ばないな」とか「あ、振りおくれてるな」っていうのは、そこが長年培ってきた技術というか、うまくタイミングをずらして、バッターに気持ちよく振らせないようにしてることなんですね」

伊集院「それは、投げてる感触でもわかるんですか」

松坂「わかりますね。僕らは、バッターの反応だったり見てるので、あ、ちゃんとできてるなっていうのは、そこで確認はできますね」

伊集院「モデルにするピッチャーはいますか」

松坂「やっぱり真っ直ぐをいかに速く見せるかっていう意味では、ドラゴンズのレジェンドである山本昌さんとか。昌さんなんかは、たぶん140キロ出ないと思うんですけど」

伊集院「本人言ってました。「130キロ出れば抑えられるんだ」って断言してました」

松坂「僕もライオンズで対戦してるんですけど、野手の方が「昌さん速い」って言うんですよね。それこそ150キロ投げるピッチャーよりも速く感じる。これから目指す、これはそこだなっていうので。もちろん投げ方とかは真似できないんですけど、そういうふうに見せることっていうのは僕はできると思うので、そういうところを目指していきたいですね」

伊集院「我々外野は、期待ももちろんあるし、ファンなりの不安と期待があるから、煽るし、過度にがっかりもするし、まあまあ大騒ぎするじゃないですか。やっぱり気になるものですか」

松坂「見ても、いいことなんかほとんどないので、見ないようにしたり、なるべくなら耳に入らないようにしたほうが、日々ストレスを感じることなく過ごせるのかなと思うんですけど、ストレス自体は、もうもう、まともに投げられないことで毎日ストレスは感じているんですけど、自分で聞きたくないと思っても、当然耳に入ってきますし、ふとしたときに目にしてしまうこともあるんですけど、でも、そういう世界で僕は生きてきていると思っているので、何も興味を示されないよりは、厳しいことを言われたとしても、自分に興味を持ってくれてるほうが、選手としてはありがたいと思ってます」

伊集院「そんな中で、これは聞いといてほしい、僕が昨日拾った情報なんですけど、すぐそこにグッズ売り場があるじゃないですか」

松坂「はい」

伊集院「そこで小学校の低学年ぐらいの子が「99番」買うんです。でね、なんで99番買うのか聞くわけですよ。そうすると、やっぱりまだわからない。だけど「お父さんが、このピッチャーがいいピッチャーだって言うから」っていうの、よくないすか?なんか」

松坂「はっはっはっ(笑)」

伊集院「めちゃくちゃ嬉しくないですか」

松坂「いや、嬉しいです。僕と同い年ぐらいのお父さんとかお母さんがちっちゃい子どもを連れてきて「松坂選手サインください」って言うんですけど、「おじさんのこと知ってる?」とかって言うと、「うーん」みたいな顔するんですけど、「ちゃんと覚えられるように頑張るからさ」って言うんですけど、そういうのを見て、まだまだ頑張ろうって思えるので」

伊集院「そうなんですよ。よけいな情報よりも、そういう情報を僕らはすごく伝えたいです。すごく伝えたくて」

松坂「(笑)はい」

伊集院「あの子の買った99番のユニフォームが自慢になるのか、そうじゃなくなるのかは、その肩にかかっているわけじゃないですか」

松坂「はい」

伊集院「クラスの子の誰よりも俺先に99番買ってっかんね、ということになってほしいですよね」

松坂「そうですね。持ってることで、「いいなお前」って言われるようになりたいですね」

 

伊集院「いろんな聞きたいことが凄い渋滞してるんですけど」

松坂「(笑)」

伊集院「ドラゴンズの若手と積極的に交流なされているって聞くんですけど」

松坂「はい。特別、なんか意識して仲良くなろうとかじゃないんですけど、ただ、新しいチームなんで、万遍なくみんなとコミュニケーションとりたいなあと思う中で、みんなとご飯行ったり、ゴルフ行ったりとかはしてるんですけど、すごくみんな性格もよくて、明るくて、自分が思ったよりも早くなじめたのかなあって思ってますね」

伊集院「最初はみんなビビッてるんですか?相手は」

松坂「僕は「気遣わないでほしい」って言うんけど、「いや、そう言われても、やっぱり無理ですよ」って言われるんで」

伊集院「絶対そうですよ。裏行ったら「やっぱ松坂だし」ってなりますよ。それは」

松坂「だったら、なるべく近い感覚でというか、若い子たちのほうに近づくというか、自分なりにちょっと考えて、「同じように喋って」とか「友達感覚でいいからさ」って言うんですけど」

伊集院「一番グイグイくるのは誰なんですか? ドラゴンズだと」

松坂「最初は大野雄大。あと、雄大、(聞きとれず)田島とかがそれにくっついてきて、そっからどんどん若い子に派生していく感じですね」

伊集院「そろそろ来過ぎの奴はいないんですか?」

松坂「この間、食事会をした時、ちょっとお酒も入っていたんですけど、二十ぐらいの子に「大輔」って言われてましたね」

伊集院「すげぇーな!いますね」

松坂「(笑)僕も全然それでオッケーだったんで」

伊集院「でも、自分ら想像すると面白いのが、自分の年にスライドさせると、松坂さんが高卒で入った時に37、8だった選手って、見てみると、伊東さんとか」

松坂「そうなんですよ」

伊集院「そういう感じで見てるんですよ」

松坂「そうなんですよね。だから、僕が入った時を思い出すというか、入った時に伊東さんとか、金村さんていたんですけど、「すげぇおっさんだな」って思ったのを覚えてるんで、今の子たちからどう見られてんのかなあと思って、気になりますね」

伊集院「でも、あのおっさんたち凄かったでしょう?やっぱり」

松坂「凄かったですね。雰囲気というか。やっぱりなかなか僕は話しかけられなかったんですよ。伊東さんとかも。それこそ伊東さんに対しては、「おい、勤!」とか絶対言えなかったんで。僕は言えなかったです。お酒が入ったとしてもたぶん言えなかったです(笑)」

 

伊集院「でも、その頃を思い出してほしいのは、あれだけ高校でスーパースターで入ってくるじゃないですか。そうすると、見た目おっさんが、40代近い選手がいて。でも、それが動き出すと凄いっていう衝撃があったと思うんですね」

松坂「はい」

伊集院「誰、凄かったですか?入った頃。やべぇ奴いるな。ただ、いきなり通用しましたからね」

松坂「当時、ライオンズの投手陣、みんな球の速い先輩たちが多かったので」

伊集院「それは、あの松坂大輔から見ても「うわ、速ぇな」」

松坂「そうです。そういう環境でピッチング練習とかしたことなかったので、楽しかったですね。ほかの人と張り合いながら投げてるのが凄く楽しかったですね」

伊集院「へぇ。誰とかですか?よく覚えてるの」

松坂「僕が入った時は、デニーさんとか、石井貴さんとか、去年亡くなられた森慎二さんとかいたんですけど、みんな150キロ以上投げてたので、楽しかったですね、一緒に投げてて」

伊集院「いるんだ、いっぱい!っていう感じの」

松坂「そうですね」

伊集院「負けらんねぇ奴がいっぱいいるわっていう」

松坂「はい」

伊集院「その後、今までの野球人生の中で、松坂さんが見てきた、バッターでもピッチャーでも、やべぇ奴」

松坂「野手ですと、一緒にライオンズでプレーした松井稼頭央さんですね。僕は、内野手であの人以上の人は見たことないですね。僕は「野手だったら松井稼頭央になりたい」とずっと思ってましたね」

伊集院「そのレベルですか?」

松坂「はい」

伊集院「だって、メジャー行くわけじゃないですか。メジャーのショートなんて化け物みたいのいっぱいいるじゃないですか。それでもやっぱり松井稼頭央の衝撃なんですか」

松坂「いやぁ、稼頭央さんみたいな衝撃を超えるのはなかったですね。稼頭央さんもメジャー行きましたけど、肩の強さとかも遜色ないですし、もちろんもっと凄い選手もいたんですけど、やっぱり、打っても凄い、走っても凄い、守っても凄い。僕の中でスーパースターでしたね」

伊集院「メジャーでは誰ですか?外国人選手」

松坂「メジャーですね、これも僕と同じチームでやってたんですけど、レッドソックスの外野手でマニー・ラミレスっていう選手がいたんですけど、僕は右バッターじゃナンバーワンですね」

伊集院「今、松井稼頭央マニー・ラミレスの名前が出て思うのって、なんかね、僕らファンからするとね、2人とも「野球好きだな」と思うんですね。独立リーグに来ると思わないじゃないですか」

松坂「そうですね」

伊集院「マニー・ラミレス、おそらく野球が好きなんだと思うんですよ。自分の中で、大金を稼いだ選手たちがそれでも野球を好きな理由って、ひと回りもふた回りもして野球が好きなんだと思うんです。僕らが食うためにお笑いをやめられないっていう、そういうレベルじゃないと思うんですね。本当にビッグマネー稼いでいる先輩方がそれでもお笑いやる理由って、「さんまさん、お笑い好きだな!」っていう感じ。で、松坂さんも、僕、その一人だと思うんですよ」

松坂「はい」

伊集院「野球、好きですか?(笑)」

松坂「大好きですね」

 

伊集院「なんかまた、楽しい雰囲気の中、またシビアな話に戻りますけど、やめてもいいかなって思ったタイミング、ないですか?」

松坂「あー、そうですね、やめてもいいかな、やめたほうがいいかなとかって、やっぱりいろいろ考えましたね。でも、うーん、小さい時から好きで野球やってきて、それがたまたま僕は仕事にできて、ここまでやらせてもらってるんですけど、だからこそ、好きな野球をこういう形で終わりたくないって思って、続けようって思いましたね」

伊集院「ここ、グイグイ行きますけど、一番「もういいかな」に寄った時、いつですか」

松坂「やっぱ去年は」

伊集院「あ、去年ですか」

松坂「去年は辛かったですね。1月から順調に投げられてて、確かに2月、3月でちょっと調子は落ちてるなと思ったんですけど、自分の中で、少し休めばまた戻れるって思ってたんですけど、それが結局、半年以上何もできなかったので、そのとき、本当に、完全にあそこで気持ちが切れるようなことがあったら、僕は、やっぱり進めなかったというか。本当、最後の最後で、やっぱりまだ好きな野球を続けたいっていうので踏みとどまったっていうんですかね。去年が一番危なかったと思いますね」

伊集院「そのとどまれる薄皮一枚って、何ですか」

松坂「あー、子ども、僕3人いるんですけど、長女と長男は、まだたぶん僕が投げてるのは記憶にあると思うんですよね。でも、たぶん次女は、僕がまともに投げてる姿を見てないというか。たぶん父親が野球選手だっていうのはわかっていると思うんですけど、変な話、もしかしたらポジションもわかっていないかもしれないですね。野球に大して興味もないですし。だから、せめて家族に対しても、もう何年も投げてる姿を見せることができてないので、もう一度ちゃんと仕事してるところを見せたいっていう思いも強いですね」

伊集院「どっかのタイミングでナゴヤドーム、呼びますか」

松坂「普段は僕は離れて暮らしてるので、夏休みで長くいるんで、その時に、やっぱり投げる試合に呼びたいですね」

伊集院「そうなると、あのTシャツを買ってる子たちの絵すら、松坂さんの家族に見せたいですよ」

松坂「はい」

 

伊集院「なんか、この番組聴いてて、野球全く興味ないけど、今、リハビリ頑張ってるとかという人、いっぱいいるんですよ。病院で聴いてるんだ。たぶんそういう人のほうが、おそらく中途半端に野球知ってる人よりも、回復の途中でまた痛いっていうことがどれだけきついかって、わかってるような気がするんです。今までの野球用語、一切興味なかった人でも、「それはわかる」っていう人、いっぱいいると思うんですけど、なんでしょう、そういう人たちに一緒に頑張ろうっていう、コツとは言わないけど、自分はどういうふうに保っているっていう」

松坂「そうですね、けがすることで投げ方変わったり、やっぱり痛みがどうしても出てしまうので、痛みが出ないようにいろいろ考えながらやってきたんですけど、そういう苦労とかも、けがしたことのない人にはわからない部分なんですね。リハビリやってる過程も、よかったり悪かったりで。でも、ここに来るまでにたくさんのサポートがあって、僕は野球を続けてこられたので、そういう人たちに対して、感謝の思いを伝えきれてない、恩返しができてない、そういう思いがあるので、なんとか諦めずに、感謝の思いをマウンドで伝えられるようになりたい!と思って、毎日リハビリしてましたね。

でも、それも最終的にはもしかしたら叶わないかもしれないんですけど、その時、いろいろ考えて、前を向いてリハビリとかをやってきたことっていうのは、僕はこれからの人生にも生きてくると思いますし、今後、後輩が同じように苦しむ時がきた時に、なんかアドバイスができるんじゃないかなって、自分のためにもなるし、もしかしたらこれからの人のためにもなると思って、リハビリはやってましたね」

伊集院「僕は、凄く今勝手にグッときて聞き入っちゃうのは、やっぱり野球なんか全然わかんない人が今の言葉に僕は一番グッときてるような気がして、そうだ、リハビリつき合ってくれてる人いるなとか、そう思うと頑張れるなとか、そういう番組に僕はしたいと思ってたし、ゲストに松坂さんをお願いして、僕は野球が好きだから、野球の話ばっかりについなっちゃうんだけれども、そういう話が聞けるととても嬉しくて。

今、でも、お話しになっている中にも、元気出したり、弱気になったり、すごい振れてたじゃないですか。まさか松坂さんからね「もしかしたら無駄になるかもしれないけど」って、すごい真摯に今おっしゃってたと思うんです。そういうものも当然ありますよね」

松坂「ありますね。回りからどう見えてるのかわからないですけど、すごく、自分で言うのもなんですけど、やっぱりものすごく、こう、戦ってるというか、本当に、いつ、やっぱり心が折れてもおかしくない時もありましたし、うーん、ほかの人と比べたりするとよくないのかもしれないんですけど、やっぱりその、たまたまテレビで病と戦ってる人たちの番組とか観たりした時も、自分が感じてる苦しさなんて、この人たちに比べたら大したことないんだなって思ったりもしますね。逆にそれで頑張れたりもするんですけど。

あとは、今言われたように、本当にいろんな人に助けられながらやってるので、その人たちのためにもまだまだ頑張りたいですし、ホークスのスタッフの人たちも、本当にいろいろ助けてもらったんで、それはホークスでは恩返しできなかったんですけど、何とかその人たちのためにも、チームは変わってしまったんですけど、いい報告ができるように、今年は頑張りたいですね」

伊集院「なんか、「なぜ、テストを受けてまで野球を続けたのか」の答えが全部入ってたような気がします。いい結果を楽しみにしてますので」

松坂「はい。楽しみに。はい。待っててもらえたら。気長に、いや、できれば早くに、いい報告できるように」

伊集院「この言葉が響いたじいちゃん、ばあちゃんから手紙がきたら、また報告に参りますので」

松坂「ぜひ、よろしくお願いします」

伊集院「今日のゲスト、松坂大輔投手。ありがとうございました」

松坂「こちらこそ、ありがとうございました」