日曜サンデー「ここは赤坂応接間」 2017年12月3日
太田「俺は養老先生とはね、最初は何年ぐらい前かな」
養老孟司「7~8年ね」
太田「7~8年前のね、先生の連載でしたっけ?」
養老「覚えてない!」
太田「なんかとにかく対談みたいのがあったんですよ。一緒の。なんかいろいろやってくうちに、ちょっと意見が合わなくなっちゃって、なんかこの爺さん怒っちゃってさ」
太田・田中「あはははは(笑)」
太田「自分の連載で、この間、爆笑問題の太田っていう奴がこんなこと言ってたけど、あいつはバカだ、みたいに書かれてさ」
田中「はははは(笑)」
太田「腹立ってさあ。はっはっはっは(笑)」
田中「覚えてます?」
養老「覚えてないそんなの!作ってんだよ(笑)」
太田「うそだよ(笑)」
養老「太田さんで一番覚えてるのはDNAですよ。日本人だったでしょう」
太田「あ、そうだ、そうだ!」
江藤アナ「何々?」
養老「日本にしかないやつ」
太田「DNAを調べた時。純粋な日本人なんです。はっはっはっは(笑)」
養老「というか、日本にしかないタイプ(笑)」
太田「先生とはその時の遺恨があるんでね、僕はいずれじっくり話したいなとは思っていたんです」
田中「そうなんですか?でも、先生はあんまり話したくなさそう」
太田「あはははは(笑)」
江藤アナ「なんかね、距離感が(笑)」
田中「あははは(笑)先生、笑ってんだけど、声出さないと。ラジオだから(笑)」
太田「先生から見たら、バカの壁の向こう側に俺がいると思う」
田中「バカの壁の向こうにお前がいるんだね」
田中「先生は、子どもの頃からいろんなものに影響を受けているんでしょうけど」
太田「今回「遺言」ですか、いよいよ、とうとう。ハッハッハッ(笑)」
養老「遺言、書き散らして(?)やろうかと(笑)」
田中「やっぱり虫だとか、身近の生物、そういうのにバーッと興味がどんどん入ったわけでしょう?」
養老「そうですよ。生き物が好きだから、僕。あんまり人間は好きじゃないんだよね」
田中「あはははは(笑)」
太田「何となくわかります」
田中「人間があんまり好きじゃない。虫が一番好きですか?」
養老「生き物ならいいんだけど、人間も生き物のところはいいんだけどさ、人間なんてうるさいでしょ。ああだこうだ」
太田「喋るからね」
養老「そう。うちの猫なんか「ニャー」だけだもん」
太田「はははは(笑)」
田中「いいですよね。猫はいいね。猫はほんとニャーだけだから」
江藤アナ「ニャーで可愛いですもんね」
田中「ニャーで可愛いんだから。わかるんだから、気持ちが。それがすごいよ」
江藤アナ「マルちゃんでしたっけ?」
養老「そうそう、そうです。だからマルがついているでしょ」
江藤アナ「あ、そっか。『遺言。』って書いてある」
田中「『遺言。』のマルは何?」
太田「モー娘。に影響を受けたのかと思った(笑)」
田中「モーニング娘。じゃないんだ。そういう意味なんですね」
太田「『遺言。』の中にも――難しいですね、先生、あの『遺言。』というのは。ちょっと読ませてもらったけど」
養老「よく言われるの。別に難しくないんですけどね」
太田「下手なのかな、文章が」
田中・太田「はははは(笑)」
田中「何を言ってるの!ベストセラー作家に」
養老「当たり前のことと反対のことを言うことが多いんで、そこでつっかかちゃうんですよ、みんな」
太田「そうか、そうか。普通にこういくだろうというのと」
養老「そうそう」
田中「でも、凄く面白いのは、我々はそうとしか考えられなかったけど、例えば、動物だったらそれはわからないわけだから」
太田「常識っていうのは何かってね」
田中「白っていう漢字をペンで書いているのを」
江藤アナ「ああ、面白かった、そこ」
田中「これが白と言ったら、いやいや黒じゃん、ていう」
太田「確かに言われてみればそうだ」
田中「その漢字っていうのは、あ、そっか!俺らは人間だから、意味で捉えるけど」
江藤アナ「捉えるけど、猫は、例えば黒い文字で書いていたら、それは白と書いていても黒って読むみたいな」
田中「っていうのとかはハッとさせられるっていうかね、ああ、なるほどなっていう」
養老「当たり前なんだけど、忘れちゃうんですよ、人間。だって、「鷺を烏と言い含める」と言うじゃないですか」
田中「どういう意味なんですか?それ」
養老「鷺って真っ白い鳥でしょう。あれを烏だと」
太田「なるほど、なるほど」
養老「それで説得するという」
太田「言葉ですか」
養老「人間てそういうインチキができるんですよ」
田中「そうですね」
養老「猫は、鷺は鷺、白は白だよって」
太田「でも、先生は学者じゃないですか。言ってみりゃあ、言葉を持たない生物が、要するに、人間になって、学者になって言葉を持って、それを言葉では説明できないものを説明する職業に就いちゃったわけじゃないですか。それは不幸ですか?じゃあ、自分で」
養老「いや、不幸じゃなくて、いくら説明してもウソくせーなと自分では思ってる(笑)」
田中「はははは(笑)」
太田「信用ができないですよ。まあ、そうかあ」
養老「日本の知恵って、日本の庶民てそうでしょ?理屈は大体ウソだと思ってる。本音ではね」
太田「最近はでも、ちょっと、いわゆる偉い学者さんが言うと、これが絶対本当なんだって、みんな思っちゃう」
養老「ほんと?」
太田「ところはないですか?」
養老「ないんじゃないの?本当は信じてないんじゃないかな」
太田「そうですかね」
養老「それは、やることを見なきゃわかんないですよ。口で言うのはどう言っててもいいけど、やることを見ると(笑)」
太田「全然合ってねーじゃねーか。言ってることとやってること」
養老「そう。180度違うことをやっている人、よくいるもん」
太田「ああ、そうですよね、確かにね。
俺がなんで先生に怒られたかっていうと、戦争の、要するに第二次世界大戦のことをまだいまだにこんなに引っ張ってるわけですよね。日本という国は。これは、世界中も――世界中はどうかわかんないけど、日本ていう国は、とりあえず負けたからなんでしょうけども、なんでああいうふうに戦争に突入していったのかとか、戦後、どうだったのかというのを、検証を先生たちがちゃんとやってくれてなかったから」
田中「この世代の人ということね?」
太田「そうです、そうです。だから、本当にあの戦争は何だったのかっていうのをなんであなたたちはやってくれなかったんだと。それで迷惑してんだ、俺たちはって言ったら怒っちゃったんだよ。ははは(笑)」
田中「そんなこと言われても」
太田「それは言葉で説明できるもんじゃないつったわけ。確かにあの本読んでると、言葉が全てじゃないということはわかるわけ。ジャンクって書いてあったけど、そういうものもいろいろあるんだと。言葉で説明できるものなんかほんの一部だということですよね。それを私は言われたのかなという気もしてたんですけどね」
養老「怒ったわけじゃないんだけど、説明できない部分に入っちゃうんでね。だから、戦場帰りというか、戦争から帰ってきた人って、大体話さないじゃないですか」
太田「話さないですね」
養老「通じるわけないよとわかってるんだよ」
田中「そういうことなんだ」
太田「なんでしょうけどね」
養老「8月15日なるとよく、戦争を忘れない、語り伝えるとか。語り伝えられることと伝えられないことがある」
太田「あるんだと。でも、先生は学者である以上、それは言葉にするべきだって俺は言ったわけね」
田中「そしたら、うるせーな!ということで」
太田「永遠に平行線です」
田中「平行線のままで」
太田「はははは(笑)」
田中「できねぇんだ!つってる。しろ!みたいなことを」
太田「でも、その後、いろいろ何年かたって、俺は3.11のあの大震災が起きた時に、なんで我々の世代はあの原発を許してたんだってあとの連中に言われた時に、自分は果たして説明できるかなと思った時に、ああ、まあ、でも、しようがなかったんだよって言うしかないのかな、俺はと思ったりして、先生の言うのはこういうことなのかなっていうことをちょっと思ったりして、まただから、ちょっとお話ししたいなとは思ってたんですけどね」
養老「今、言葉の世界ですからね」
太田「言葉の世界ですよね」
養老「ラジオもそうですよね」
田中「そうですね。なんでも言葉で、いかに表すかっていう」
養老「だから、言葉で一生懸命やるのはいいんだけどさ、そうでない部分があるでしょうって。それは言葉にならないとは言っていないんですよね」
太田「面白かったのは、物理的な、先生、学者だから、言ってみれば、そっちを信じてる人のはずなんだけど、いわゆる科学っていうものは尺度なんだと。全てが。測って。小林秀雄なんかも言ってるんだけど、物理学がここまで発展したのは、うんとほかを削ぎ落として、狭い道にして、そこだけの研究にしたから、例えば、アインシュタインの相対性理論がここまで発達したのは、道をうんと狭くしたからであって、それは立派なものなんだけど、それが全てじゃなくて、そこからそこに発展するまでには、ほかを排除しなきゃいけなかった。その排除の部分を取りこぼすなよというのが、なんかあるんだろうなと思うんだけど、でも、前提として科学って、それすら全部数字で説明できるという前提に立たなきゃ、やってる意味ないじゃないですか」
養老「そうですね。それは頭の中の話なんだ、あくまでも。だけど、生きてる時は別でしょ。だってそうじゃないですか」
太田「まあ、生きてる時はね」
養老「脳味噌の中で生きてるわけじゃない。だから、コンピュータの中と同じでね。あるじゃないですか、映画が。なんだっけ。コンピュータの中の世界」
田中「バグったりとか、そういうことも含めてですか」
養老「だけでできている」
田中「『マトリックス』みたいな」
養老「『マトリックス』みたいなね。現に人間が生きてるのはちょっと違う世界なので、それ、なかなか、日常にそれを意識するのは難しいけど」
太田「難しいですね」
養老「でも、東京にいたらわかりません?」
江藤アナ「うん?東京?」
養老「東京にいて、時々田舎に行ったら何が違うか」
江藤アナ「何ですか?」
養老「要するに、人間に関係ないものがなさ過ぎるんだよ」
田中「そうね。無駄なものがっていう、本にも書かれていますけど」
養老「意味のないものね」
田中「意味のないもの。全くね。っていうのが」
太田「なさ過ぎる」
田中「東京はほぼない」
太田「全部意味がある」
田中「うんうん。だけど、田舎に行くと、別に意味はない」
養老「水たまりも、ミミズの死んだのも、モグラの塚もね、何にも意味ないことです」
田中「何にも意味ない。でもそれがいいっていう」
養老「それが世界ですよ」
江藤アナ「そうですね」
田中「そう言われればそうですけどね。ただ、もう都会じゃなきゃ生きていけない、みたいなね」
江藤アナ「もう慣れちゃってるからね。本当に便利で」
田中「さっきまで、いかにデリバリーか、みたいな話をずっとしてた。この番組で」
養老「こういうところにさ、時々沢庵石ぐらいの石を置いたら?と言うんですよ」
太田「石? 漬物石みたいなやつ?」
養老「どかんと置くの」
太田「おいてどうするの?」
養老「聞くでしょ、みんな。「これ何ですか」。意味ねぇんだよ、これ」
太田・田中「あはははは(笑)」
江藤アナ「意味のないものを置いておく」
田中「あ、そういうことね」
太田「あはははは(笑)」
養老「小さいとね、機嫌が悪い時、彫ったりするでしょう。意味が出ちゃうから(笑)」
田中「でかいと、本当に言ってみれば無駄なものというか、意味のないものになるということね」
養老「そうそうそうそう」
田中「京都国際漫画ミュージアムの名誉館長なんですよね?」
養老「そうです。3月までは館長だったんだけど、4月から荒俣宏さんに変わった」
田中「それは、漫画がお好きなんですか?なんで?」
養老「漫画の研究と言うと大げさなんだけど、あんまりやられていないんですよね。日本人はどうして漫画が好きかとか、得意かとかいう話を本に書いていたことがあって」
田中「へえ。ちなみに、先生が好きな漫画家は」
養老「僕は古いんでね、赤塚不二夫から」
太田「赤塚先生も虫好きだしね――。あ、赤塚さんか」
田中「手塚先生でしょう。手塚治虫さんはたぶん」
養老「子どもの頃から。衝撃でしたよ、あれ、最初に読んだ時」
太田「凄いですよね、子どもの図鑑」
田中「それこそ手塚さんが子どもの頃に書いた図鑑、ここで見ましたけど。本物を」
太田「あれは凄かった。昆虫採集みたいなんだ」
田中「小学生の時に」
江藤アナ「小学生でそんな」
田中「本当に昆虫採集したリアルな図鑑のような絵が少年の頃の手塚治虫さんが書いているわけ。トンボだ、蝶だみたいなああいうの。先生のお家にはまさに本物の標本があるけど、あれ、絵で描いてるの。友達が持ってるの、ずっと」
養老「円山応挙だってあのくらいちゃんと描いてますよ」
太田「うーん。昔の?」
養老「うん。伊藤若沖は随分作ってますけどね」
太田「そうなんですか。架空のやつを」
養老「そうそうそう」
太田「へえ」
養老「応挙なんか今でも種類がわかるもんね」
太田「へえ」
田中「赤塚不二夫さんはなんでそんなに好きなんですか?」
養老「嫌いですか?」
田中「いや、好きですけど」
太田「大好きですよ。「バカボンのパパ」」
江藤アナ「なんか先生のイメージ」
太田「一歩間違ったらバカですよ。はっはっはっは(笑)」
養老「ギャグ漫画好きなんですよ。だから、高橋留美子も好きだし、山上たつひこね」
田中「えーっ!?『がきデカ』とか、養老先生読んでたんですか?」
養老「そう」
田中「すごい意外な感じ」
養老「そうです」
田中「確かに意味ないんだよ。はははは(笑)」
養老「そうなの」
田中「確かにナンセンスだから」
太田「ノイズだもんね」
田中「そう。だから、赤塚さんの『バカボン』だって、あのバカボンのパパっていうのは意味あること何にもしてないですからね」
江藤アナ「確かに。でも、なんか愛すべき存在なんです」
田中「やりたいことをやっているっていうことだから、そういうのに憧れているというか、これが本来の姿かな、ぐらいに」
養老「バカボンのパパがね「僕も会社に混ぜてください」とか言って」
太田・田中「はははは(笑)」
田中「いいよね」
江藤アナ「いいですね。確かにね。ほっこり」
太田「はははは(笑)」
田中「先生は、子どもの頃から、そうやって昆虫採集だなんだやって、漫画も読む。たぶん本とかもいっぱいほかも読んでたわけでしょ?」
養老「そうそう」
田中「どんな子だったんですか?天才君みたいな、神童みたいな感じ」
養老「そんなことない。困った子ですよ」
田中「どういうふうに困った子ですか」
養老「白目むいてっからさ、なんだって。白目むくって言うじゃない(笑)」
太田「はっはっはっは(笑)」
養老「乗らないっていうような(笑)。「なんかやろう」っていう(のに)。いるでしょ」
田中「ああ」
太田「ひねくれた奴」
田中「ちょっと偏屈な子」
養老「そうそう」
田中「ひねくれ者で」
太田「へそ曲がりで天の邪鬼」
田中「太田さん、ちょっと共通なところあるんじゃないですか?」
太田「確かにそうなんでしょうけれども、こんな頭よくないですから、僕はどうせ」
田中「どうせじゃねー」
太田「ただの嫌われ者ですから。はっはっはっは(笑)でも、だから、そういう意味で言うと、本当に、先生の本なんかも読んでると、いわゆる科学っていうのが、本当は今、一般の人が本当の心の底では疑ってるかもしれないけど、でも、一応前提として、これが正しいんだという常識になっちゃっているじゃない。それを、例えば、ちょっと前に、小保方さんて」
江藤アナ「STAP細胞ね」
太田「STAP細胞の時に、あれはナントカっていう、サイエンスだっけ? ナントカっていう世界的に認められた科学雑誌に載ったから、ワーッとみんな「凄い」ということになったけど、あれがなんかちょっと違ってたみたいつっていった時には、ダーッと落とした。そこに褒める人と責める人は同じ人たちだけど、その人たちに、何の科学的知識もないのに、なぜあそこまでなれるのか。
ましてや小保方さんは、我々知らないわけだから、もしかしたら合ってるかもんしんないって俺なんか思うわけ。合ってた時にどうすんだって。要は、いわゆる一般的に認められている権威みたいなものに、あまりにも今、とにかく科学的っていう言葉が科学的じゃない、一番科学的じゃない言葉のように思えるんですけどね」
養老「それ、書きました。それを考えてる意識っていうのが、科学者の定義がない」
太田「ないですよね」
養老「どういう働きなのか。電気なのか、熱なのか、エネルギーなのか。どれでもない。ずっと僕は科学的じゃないと言ってる、言ってるそのものが、科学で定義できてないんだから」
太田「できてないですよね」
養老「保証はないんですよ」
太田「でも、先生はその科学者の世界にずっといるわけじゃない。居心地悪いですか?」
養老「居心地悪い」
太田・田中「はははは(笑)」
養老「悪いに決まってんだ」
田中「リスナーからもいろいろと質問がきているので、答えていただいてよろしいでしょうか」
養老「はい」
太田「(メール)タバコをやめない人をどう思いますか?」
養老「どう思うって、何にも思ってなかったな(笑)。やめる人もいるし、やめない人もいるしね」
田中「先生は?」
養老「僕はしょっちゅう、やめたりやめなかったりしてます」
太田「やめてないってことだ。はははは(笑)」
養老「1本と1本の間はやめてるもんね」
太田「はははは(笑)」
太田「(メール)喧嘩はよくないことですが、虫や動物もするので、本能なのでしょうか」
田中「ああ、ちょっと深いっちゃ深いですね」
養老「そうですよ。結構ね、争い事あるんでね。特にオスの縄張り争いが多いのね。あれ、喧嘩っていうのかな?やってますよ、よく、虫」
田中「虫はね」
太田「そうしないと生きていけないですよ」
江藤アナ「生き残りというかなんというか」
養老「でも、喧嘩しなくても、全部が喧嘩しているわけじゃないからね。だから、やっぱりああいう、そういう仲間があるんですよね。そういうグループっていうか」
太田「ちょっと権力欲みたいなのあるんですかね」
養老「わかんない。面白いね、あれ」
太田「でも、先生ね、そうすると、人間は争いごとはしょうがない」
養老「どっちかというとしょうがないんじゃない? 状況で。避けるんだったら、そういう状況を作らないようにするしかないんだけど、面倒くさいよね、それもね」
太田「まあ、面倒くさいね」
養老「多少喧嘩してるのはいいじゃないですか」
太田「面倒くさいって言うからだめなんじゃない?」
養老「そう?すいません」
田中「あはははは(笑)」
太田「俺ね、結局、回り回って最初の話に戻るんだけど、今も安倍さん――あの時もたしか安倍さんだったと思うんですよ」
養老「そうかもしれないね」
田中「第一次の時の?」
太田「それで、いろいろ安倍さんも憲法改正だとか」
田中「「美しい国」とか出した頃とか」
江藤アナ「2006年ぐらいかな」
太田「やってて、そんな感じになってきてるじゃないですか。やっぱりあれを憲法改正をやるには、国民投票をじゃあやりましょうという時には、遡って遡っていくと、やっぱりあの戦争は何だったかっていうとこから、みんなが納得しないと、なんで日本がもう一回武器を持つか、あるいは本当に捨てたままになるのか、あるいは自衛隊まで捨てるのか、みたいな選択になるには、やっぱり東京裁判が何だったのかというところまでいかないと駄目じゃないですか。そうすると、やっぱりそこに隠されていたものがいっぱい実はまだあって、例えば「きけわだつみのこえ」だって、あんなのGHQが全部検閲して、いわゆる戦争反対みたいないい意見ばっかり載せてた。実は、あの戦争が本当に正しいと思っていた正義の側の理論が、我々、それを隠されてたから、いわゆる先生がさっき言った、戦争から帰ってきた人たちが口を閉ざしていたことが聞けてないままじゃ判断できないですよね。それどう思います? 先生、やっぱり言うべきじゃないですか? 言うべきっていうか、決着つけるべきじゃないですか」
養老「ラジオじゃ無理だね(笑)」
太田「今度じっくりそれをお願いしますよ」
養老「それは言えばきりがないですよ」
太田「そう思うんだよね。やっぱりね」
田中「まあ、そうね」
養老「簡単な例を言うと、中国でも朝鮮でも――朝鮮て、今の朝鮮、韓国でも」
太田「韓国、北朝鮮」
養老「フィリピンでも、親日派はいたはずですよ」
太田「いたはずですね」
養老「今、見えないでしょう。どうなってるの? 中国は消されてますよね。かなり。言わないでしょう、全く」
太田「台湾にはいますもんね」
養老「台湾は、別にそういう問題は、蒋介石が来たから問題が起こったんで、フィリピンなんかも前にNHKが特集しましたね。やっぱり抗日ゲリラをやってた連中と、日本軍に協力した人たちが、お年寄りになって口聞かないで、若い人が仲よくさせようって」
太田「その辺までじゃあはっきりして、紐解いていかないと」
養老「そうですよ」
太田「ですよね」
養老「大体、韓国、北朝鮮て、僕らの小学校の時は日本ですからね」
太田「そうですよね。だから、その感覚がもう今の若者にはないですからね」
養老「第一、今、僕、ものすごく不気味なニュース。石油止めてるでしょう。アメリカが石油止めてる。あれ、この前、日本が戦争に入ったのと全く同じなの」
太田「ABCD包囲網ですもんね。だから、それはちょっとね、先生『遺言。』書いたんだから、死ぬ前にちょっとやっぱり」
田中「もう遺言書いちゃったから」
太田「はっはっはっは(笑)」
養老「だから、書き散らかすと言っている」
太田「閉店セールみたいなもの」
養老「大阪にあるもんね。閉店セールで何十年やるんだ、あれ」
田中「あれね、とうとう閉店したらしいですよ(笑)」
養老「またどっかで開いてるよ(笑)」
田中「(『遺言。』を)読んでいない人に、どういった本なのか」
養老「最初は、子どもの時からの疑問で、人と動物はどこが違うんだろう。猫と俺はどこが違うんだろう。それですね、一番大きいのはね。そこから考え出したら、最後のコンピュータまで行っちゃったんです。同じ1本で行っちゃうんですよ」
太田「確かに常識って、動物と人間の常識は本当に違うもんね」
田中「そうなんだよねえ」
太田「どっちが常識なんだというのは、常識なんてものは主観でしかないものですよね」
養老「それで、動物も人間もちゃんと生きてるじゃないですか。しかも祖先は同じじゃないですか。だから、共通の面ていうか、それが僕、昔から動物を調べてるから、それを調べたくて、幾つになっても抜けない。やっとこの年になって少しわかったかな。嬉しいんだよね」
太田「ああ、なるほど」
養老「それ、若い時から本当に気にしてた。普通さ、あんまり考えないでしょ?」
太田「そう。考えないですね」
養老「猫バカだ。以上、終わり」
太田「でも、猫はバカはバカだとは思ってるでしょ?」
養老「バカじゃない!僕より利口ですよ」
太田「本当ですか?」
養老「ただ生きてるっていう意味で言うと、あいつのほうが絶対利口だよ」
太田「ああ、そうか」
田中「だって生きてんだもん、幸せに」
養老「今日だって、一番天気がよくて、あったかくて気持ちいいとこにいてさ、俺、それ置いて出てきたんだもん」
江藤アナ「そしてこんなところに。ごめんなさい」
田中「嫌なこと言わされてね。一生懸命働いて」
江藤アナ「猫のほうがよっぽどいいよ」
養老「あいつは長生きするよ」
田中「猫なんてほんとに人のために何もしてないし、何の努力もしない。だけど幸せに暮らしてる。猫のほうが頭いいかもしれない」
養老「そうそう」
江藤アナ「可愛いと私たち思いますしね」
養老「そう。だまされて」
田中「可愛いのが一番凄いんだよ」
太田「俺だって可愛いと思われるよ」
江藤アナ「あははは(笑)」
田中「あんまり思われないよ。
でも、読んでると、あ、なるほど、こんな考え方あるのねという感じ」
江藤アナ「そうですね」
太田「いろんな考え方。この先を自分で考えるのがいいと思う」
田中「『遺言。』ぜひ皆さん読んでいただきたいと思います」
太田「ぜひ言葉どおり死んでください」
江藤アナ「ちょっと!最後酷い!(笑)」
太田「はっはっはっは(笑)」
田中「ということで、ここは赤坂応接間、本日のゲスト、養老孟司さんでした。どうもありがとうございました」