空洞化された真ん中を見せたい

 

トーキングフルーツ 2017年7月18日

 

古館伊知郎「僕ね、『ひよっこ』の主人公からしたら実のおじさん役で、バイクで来るじゃないですか。あのシーンから何話か連続して観て、もちろん山形弁が上手いから、あれは結構ベースにあるっていうのはわかるの。役者として上手いですねぇ」

峯田和伸「そんなことはないです」

古館「すごく自然に、上手い人だなぁと思う」

峯田「なるべく、台詞っていうのはもとからあるわけですから、それを覚えるっていう時点で自然じゃないわけじゃないですか、どこかで。でも、その不自然さをちょっと、それがまず大前提にあって、それを、なんていうんですかね、なるべく自然に言おうっていう、嘘の中に何割か自分のあれがヒュッて言えた時あって、気持ちがいいんですけどね。それが伝わればいいんですけどね」

 

古館「メインの音楽活動で言えば、詞がやっぱすごいなぁと思うのは、例えば、結構語呂合わせ好きじゃないですか。あれはなんですかね? 「甘いシュークリーム 君はシュープリーム」は何でしたっけ?」

峯田「『BABY BABY』という歌なんですけど」

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古館「「君は甘いシュークリーム 君はシュープリーム」、そこで終わるんだったら単なる言葉遊びですよ。その後に、直後に「月面のブランコは揺れる」って出るでしょ」

峯田「はい」

古館「なんで言葉遊びの後にスッとこんなすばらしい詞が入ってくるんだろうっていうんで、翻弄されるっていうんですかね。

じゃ、あれはどうですか? 今度出る」

峯田「『エンジェルベイビー』っていう曲」

古館「あれのサビが好きなんですよ。ロックンロールは世界を変えて~♪ あれは変えてないだろうっていう皮肉?」

峯田「あ、はい、はい。いろいろ、はい」

古館「いろいろあるんだろうと思うけど、あれはメロディも詞もいいし」

峯田「あ、はい。いやぁ、ちょっと、もうこういう話どうなんだろう、もう(笑)」

古館「その後にくるのが、「ここじゃないどこか」って言い古されてるじゃない。自分の在り処とか。「ここにあるどこか」って締めますよね」

峯田「あ、ありがとうございます。なんか、書いてて思ったんですけどね、「ここじゃないどこか」っていうのはよく聞く言葉ではあるんですけど、「ここにしかないどこか」もなんかあるんじゃないかっていう気がして、歌詞を、そうですね、あの曲を作ったときは、まずそこから始めましたけど」

 

峯田「言葉をいかに使わないで、もっと必要最低限の言葉で流されるメロディで歌われる歌が強いのかなと思います。まじめなことを言ってしまうと。本当にいっぱい情報量が今多い世の中で、昔って、情報がない分、日常の中に。映画だったり音楽って、その情報量が刺激だったと思うんですけど、今は、もう日常のほうが、SNSとかいろんなところで、日常のほうが情報量が多くて、前のように、映画だったり、音楽だったり、舞台っていうのが効果をなさないような気がして。だったら、もう、情報ないほうがかえって新鮮なのかなと思ったりします」

古館「峯田さんの楽曲にはそれがありますね」

峯田「なるべくシンプルに、誰もが、解釈が違えど、なんか、あ、いいな、この歌と思ってもらえるような、みたいなことができればいいんですけどね。ライブでも、作曲でも」

古館「だけど、峯田さんのメロディラインには老若男女がいるもん」

峯田「ロックって言われている、こういう格好をして、こういうことを歌って、たまに英単語が入ってる歌詞とか、いわゆるカッコいい系、様式美としてのロックっていうものじゃなくて、もっと身近なものっていうか、その辺に落ちてるようなもの、なんかその辺を拾いながら作れればいいんですけどね。歌をね。って思いますけどね」

古館「でも、既に作ったものを、過去を見れば、ほんとにそういうものがいっぱい詰まってる」

峯田「これ、ほんと、まじめなとこ、カットしてもらっていいですか。ちょ、ちょ、ちょっと恥ずかしくてもう」

 

古館「ちょっとすいません、変な質問していいですか?」

峯田「はい」

古館「本物ですよね?」

峯田「はい(笑)」

古館「銀杏BOYZでライブでやっている、僕は何回か観させてもらった峯田さんとか、もうめちゃくちゃなんで、この人は一体誰だろう?と思っちゃうんです。話してても。これが素ですか? 素でもない」

峯田「素でもないと思います。テレビ向けです」

古館「ああ、テレビ。これだけの台数回っていればね」

峯田「はい。素でステージに出ることができないです」

古館「はあ」

峯田「まず。なので、昔はそのままでいけたかもしれないんですけど、ちょっとある時期から怖くなってしまいまして。叩かれたりとか、変なライブとかやったら、「もうライブ行かない」とか言われる声がちょっと怖くなりまして、それで、自分で“銀杏BOYZの峯田”っていうものをキャラクター化したんですよ。そしたら、もう何やってもコイツ(銀杏BOYZの峯田)はいいんで、何やっても叩かれるのはコイツ(銀杏BOYZの峯田)なんで、僕はもう全然楽になったんですよ。なので、あまり素というかは、もう。はい」

古館「あ、そうなんだ」

峯田「古館さんもそういうところありませんか? これが当たり前、100%の家にいる、リラックスしてる時の古館さんじゃないじゃないですか」

古館「ああ、そういう意味では全く。これ、例えば“銀杏の峯田”といって、そうじゃない峯田って、“銀杏”がつく限り、銀杏のほうに寄せることって可能じゃないですか」

峯田「はいはいはい」

古館「だけど、僕の場合、古館伊知郎って親につけてもらった本名だから、そんなふうに分けられないと思っていたんですけど、今の質問で、所詮名前がどうあろうが、どこか演じてるなと思いました。なんでこんな素直に、俺は演じてるんだ、正直に作ってること言われちゃうと、人間て自白しますね」

峯田「ああ、そうですか」

古館「あなたは“メロディラインの自白剤”ですね」

峯田「出た!」(スタッフ笑)

峯田「今のメロディラインの何ですか? 自白剤。これっていうのは、今、ポッと出たんですか。それとも、実は2日、3日前からこういうことを言おうと、キラーチューンと言うんですか? キラーワードを、前半、トークの序盤で差し込もうかな、みたいな、どっかあるんですか? その計算も」

古館「もちろんあるんですけど、俺なりに、こんなふうなフレーズ言ったら峯田さん喜ぶかな、みたいな、二、三ないわけじゃないんですよ。それ、ちゃんと見えない袋に積んで持ってきてはいるんですよ。だけど、それいきなり出しても絶対タイミング的に合わないんですよ。序盤は。やっぱり作った感が出ちゃうんですよ。だから、峯田さんの話でふっと正直に思ったことをやるっていうんで、自白剤は完全に今この場で思ったことなんです」

峯田「はあ」

古館「やっぱり事前に用意したのは、だいぶ機が熟して、これも、もうぎりぎりなくなるぐらいじゃないと無理だと思うんですよ」

峯田「ああ、なるほど」

 

峯田「そんなことばっかやってたんで、みんな辞めていきましたね。メンバー」

古館「結果、そういうことですか?」

峯田「そういうことだと思いますね」

古館「メンバー一部入れ代わった。しかも、さらに辞めましたよね」

峯田「そうですねぇ。ほんと、みんなよく頑張ってくれましたねぇ。ほんとに感謝してますね。メンバーには。あの人たちには」

古館「やっぱ、そうですか。最後は、峯田についていけない、みたいになるんですかね?」

峯田「どうなんですかね」

古館「あなたの凄まじさによって」

峯田「いやぁ、どうなんすかね。だから最近は、あまりそういうことはやらないで、本当、音楽的になったと思います。最近は。もう嫌ですもん、友達と、絶好だ、みたいになるの嫌ですもん」

 

古館「ライブで“銀杏BOYZ峯田”というところで括れば、ある種、救世主。悶々としたり、チクショウと思ったり、全く満たされない多くの若者の救いになってるじゃない。だから、ライブコンサートがちょっと、集会に行って救われたい、みたいな。教祖のところに」

峯田「僕は、そういうものが、そういう、一神教って言うんですか? そういうものが自分はダメな、まずダメというところから始まってはいると思うんですね。ただ、そのどちらでもない、アンチヒーローみたいなところが、たぶん、そういうもの、自分が見たら、嘘くせーなとか、こんなもの、なんかからくりがあるはずだとか、そういう目線はずっとあって、でも、一神教的なものを今作り上げたいのかなというのはあるんですよね、どっかで。不思議な感覚ですね」

古館「でも、それを否定する感覚もある。一神教ってちょっと信用ならねぇと。まだ多神教っていうか、融通無碍なほうがいいっていう」

峯田「うん」

古館「それで言うと、キリスト教的じゃなくて仏教的なんだ」

峯田「うん」

 

峯田「隠してるんですよ。さらけ出しているって思われますけど、さっきも言いましたけど、ステージ上でも全てをさらけ出して表現、とか言われるんですけど、逆なんですね、本当は僕からすると。あんまり自分というものを見せないで、ただ真ん中にあるものを見せないで、脇だったり、型って言うんですか? 型を作ることによって、空洞化された真ん中を見せたい、みたいなところがどっかにあるんだよね。あんまり自分というものは見せたくないんですね」

古館「ああ、そうか。周縁に神が宿るというんですかね。本質には何もない。玉ねぎの皮に何があるかって剥いたら、最後何もなかった、じゃないけど」

峯田「そうですね、ペルソナですよね」

古館「ペルソナですよね。それは、歌の中に若干の虚しさを感じさせてもらったりするのと似てて、峯田さんも気づいているんですかね、セックスであろうが、実生活の違う部分であろうが」

峯田「僕もちょっとそういう、本番第一主義から、やっぱり前戯のほうというか、やっぱり頑張っていかないと、そろそろ」

古館「本番に何が意味があるんだ、と。空洞化してるっていうか、むしろ前戯に真実の神が宿っているっていうか、ね。なんか本番という言葉が形骸化してるような感じしませんか?」

峯田「します、します」

古館「だから何だと」

 

古館「新宿のラブホでは吐いたりしなかったですか? 唾は」

峯田「そういうのは溜まんないんですよね」

古館「そういう時は溜まんないし、紳士なんだ」

峯田「紳士……(笑)」

古館「その表情持ってたら、絶対新宿じゅうの女がラブホに集結します」

峯田「ほんとですか?」

古館「はい。だって、言い終わった後にニコッと笑った時、言われるでしょう?可愛いって」

峯田「いやいやいや、もう、気持ち悪いって言われますけど(笑)」

古館「俺が女なら抱いてもらいたいです」

峯田「ほんとですか?」

古館「はい」

峯田「男性からはよく言われますけど、女性からは全然」

古館「あ、それなのかな」

峯田「もうちょっと女性のほうから」

古館「ニコッと笑った時可愛いよ」

峯田「ほんとですかねぇ? この感じでいっていいんですかね?」

古館「はい」

峯田「大丈夫でしょうかね?」

古館「いやだって、もう、あなたには、生意気な言い方で失礼だけど、芸があるもんね。芸がある人っていうのは、だから今もう引く手あまたなんです」

峯田「いや、素でいけないから、しょうがないからやるしかないんですよね。ほんとに、シュッと出て、シュッとやって、お疲れでしたーって帰りたいんですけど、ちょっとやっぱり、はい」

古館「だって、ライブに来る熱狂的な人たちは、素であろうが、作り込んであろうが、どっちだっていいんだもんね、もはや」

峯田「どうなんすかねぇ」

古館「そう思う。だって、幾らここで、作り込んでるんだとか、演技だとか言ったって、演技でも何でもいい。峯田さん、あなたがやってんだからって」

峯田「自分でも“銀杏の峯田”ということに立ってはいるんですけど、どっかで我を忘れてる自分、100%素の自分ももちろん共存してて、すごい俯瞰で自分を見てるコイツも、どっちもいるっていう感じなんですよね。だから、いいライブの時ってどっちもあるんですよね」

古館「ああ」

峯田「50、50じゃないんですよね、100、100なんですよね。どっちもいる感じがあって」

古館「だから、札幌で見たやつも、「人間」かな?」

峯田「「人間」」

古館「「人間」だ。あの「人間」の時、イントレかなんかにガーッとしがみついたりする時に、落っこったら怖いとか、怪我しないようにとか思うんですよね。スタッフも来て。でも、あの時、確実に峯田さんの中にもう一人の自分が幽体離脱して見てますよね」

峯田「ええ」

古館「そうじゃなきゃできませんよね」

峯田「だと思います。

ちょっといいですか? 今、歌っていいですか?」

古館「何歌ってくれるんですか?」

峯田「ちょうど僕も歌いたいと思ってた、今ちょっと話題になったんで、『人間』て曲をいいですか」

 

峯田「どうもありがとうございます」

古館「「まわるまわる ぐるぐるまわる 吐くまで踊る 悪魔と踊る」、これ、お気に召さないかもしれないけど、“叫ぶシェイクスピア”なの、僕の中で」

峯田「ああ」

古館「『リア王』とかで言う台詞とちょっと重なってきて、ものすごい歌詞ですね、これ。いいですよぉ」

峯田「こういう歌をしばらく書いてないので、早く新しくいっぱい曲作んないとなって」

古館「でも、焦ってもなかなか。感動して聴いてました」

峯田「あっ、あっ、僕も感動して歌いました。届けばいいなぁ、観てる人にって」

 

 

対談の場所、高円寺のお店は、小宮さんや井口さんが会ったところだろうか。