レッテル

 

星野 源のオールナイトニッポン 2016年11月28日

 

星野「僕がすごく面白いなと思ったのは、第7話の古田 新さん演じる沼田さんという役が出てくるんですけど、この方はゲイの役で、その中で平匡が「沼田さんて鋭い人だと思っていました。男性と女性のどっちの視点も持っているから」という台詞があるんですけど、周りの藤井 隆さん演じる日野さんと大谷 亮平さん演じる風見さんが「違うと思いますよ。沼田さんはただ沼田さんなんですよ。ゲイだから男と女どっちの感情も持っているわけじゃないですよ」ということを、すごくセンシティブな議題といいますか、話題を、すごく軽やかに脚本に書いてあって、ドラマの中で軽やかに表現されているんですけど、そういう話があって、そこで平匡がすごく反省するという描写があります。自分が決めつけられるのは嫌なくせに、どうして人はレッテルを張ってしまうんでしょう。

そういう台詞があった後に、平匡が拒否するというエンディングになった時に、みんな怒っている怒り方が、メールとかを見ていると、男なのに何やってんだ、と。女性から申し込まれたそういう誘いを男がなぜ断るかと怒っているんだけど、それって、平匡なり、みくりなりがずっと苦しんできた、男に生まれたからというレッテル、女に生まれたからというレッテル、そういうものと全く一緒なんですよね。

見ている人たちがそういうふうに責めてしまうということが、つまり、平匡とみくりが苦しんで、どうして、出演者みんなですけど、みんな苦しんでいるんだけど、前向きに何とか頑張ろうとしているというのがこのドラマのすごく素敵なところなんですけど、なぜみんながこんなに苦しんでいるかという、その一番大事なところを視聴者が思ってしまうというのが、僕はすごくこのエンディングの面白いところだなと思ったんです。

すごくわかりやすいなと思うのは、男女を反転するだけで、全然怒らないんです。怒る気持ちにならない。今まで彼氏がいたことがなくて、そういうこともしたことがない女性に対して「いいですよ、あなたとならしても」って男が言った時に感じる感情って全然違うじゃないですか。怒りじゃない。それで拒否しても全く怒る気にならない。それはしょうがないよねと言われる。でも、男になっただけで「お前しっかりしろよ」ってみんなから言われるってことは、それはいかにみんなが「男」と「女」というレッテルに縛られているかということの証明なんですよね。

だから、出演者が苦しんでいる理由は、観ている人たちの、怒った人たちの心の中にあるという。それが脚本の野木さんがどこまで意識して書かれているか、原作の海野さんがどこまで書かれているか、ごめんなさい、原作にこのシーンがどこまでそういうふうにあったかはちょっとはっきり覚えてはないんですが、どこまで意識されているかわからないですけど、そういうふうになるというのが、すごく、すごく面白いドラマだなと僕は思いました。

本当にそういうのを全くなしで観ると、「好き」という言葉を伝えずに少し突っ込んでしまったみくりと、それでもやっぱり35年という期間は長かったという、どっちも悪くない、しょうがないよねということの、ただの本当にちょっとしたすれ違いなんですけど、それがすごく観ている人がウオーッとなってしまうのは、そういうレッテルの仕業なのではないかと僕は思って、すごく面白いと思ったというお話でございました」